インタビューコラム「多文化共生を解く」第6回
このインタビューコラム「多文化共生を解く」では、私(水嶋)が出会った、素敵だな、おもしろいな、と思う人にどんなことを考え、工夫をしているか、どんな変化が社会に必要と思うかなどお話を伺います。詳しい企画概要は第1回冒頭で。
過去のバックナンバーはこちら。
第1回:監理団体とITツール
第2回:人間関係と地域の居場所
第3回:子育てから広がる世界
第4回:NPOから見た13年の社会の変化
第5回:名古屋のベトナム人✕日本人で謎解き交流!
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これを読まれている方の多くがご存知だと思いますが、技能実習生は来日前に、それぞれの送り出し国(母国)で半年から一年程度の研修を受けます。この研修を行う教育機関は「送り出し機関」と呼ばれ、日本語や日本の生活について研修を受けたあと、受け入れ先となる企業の面接を経て、日本で協同組合(監理団体)のフォローを受けながら技能実習が開始する訳です。
技能実習生の失踪や暴力などが起こる背景でも、この送り出し機関の役割と責任は大きいとされ、そもそも教育が不十分だったり、日本から来た組合を接待したり、組合の要請を受けて見切り発車的に内々で送り出しを決めたり、そこで経済的にも待遇的にもしわ寄せがいくのは実習生、という問題があると言われています。
ただ、当然ながら健全に運営されている方も多くいらっしゃるのですが、メディアのセンセーショナルな報道もある中で、「送り出し機関が悪い」「協同組合が悪い」というイメージを持ってしまっている方も少なくありません。
今回は、ベトナム・ハノイにある送り出し機関「LACOLI」役員、宮本さんを取材。
社名や個人名は知らなくとも、この記事を読まれている方であれば、「ベトナム人技能実習生の理想&現実」というFacebookページをご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。2017年から技能実習生まわりの課題や現状について発信を続けており、今やそのフォロワー数は8000以上。Facebookにおいてベトナム人技能実習という分野でこの数は圧倒的です。
そもそも、送り出し機関や協同組合という実習制度の仕組みの上でお仕事されている方は、問題があっても「臭いものに蓋をする」的な発想で黙ってもおかしくないというか、基本的に自分たちにとって利益はないんですよ。その上でこれほどまでに率直に発信しているのがすごいこと。それもここまで来ると、もはや課題意識を持って取り組んでいるというLACOLIのブランディングにもつながっているという気がします。
実は以前からLACOLIさんには弊社の製品を導入していただいており、やりとりする機会が多くあるのです(宮本さんからは「実験台」と言われています(笑))。
LACO日記:イラストで学ぶ日本語”COMIGRAM”(LACOLI株式会社の公式Blog)
このコロナ禍の中で、ベトナムを含めて多くの国から技能実習生の入国が一年以上に渡って規制されてきました。そこでようやく再開した中で、LACOLIさんなど送り出し機関はどんな状況で、どんな課題意識を持っていて、今後、送り出し国としてのベトナムや、技能実習制度の行方をどう考えているのか。すっごい根掘り葉掘り聞きました。この問題に関心を持たれている方であれば、必読と言ってよい1万字です!
宮本さん(中央)
きっかけは”愚痴”、技能実習の現実を5年前から発信
※発言者は敬称略
水嶋:まずは宮本さんについて自己紹介をお願いします。
宮本:送り出し事業をしているLACOLI株式会社で、役員をしながら日本語の先生をやっています。ほかにも社内の諸々を見たり、お客様の対応などもあり、二足三足のわらじを履いているという感じですね。
水嶋:役員!前に取材したときは社員でしたよね、もしかして出世されました?
宮本:そうですね。
水嶋:おめでとうございます!
宮本:ありがとうございます(笑)。
水嶋:役員になったことで業務の範囲って広がりましたか?
宮本:もともとやっていたことに肩書きが付いた感じですね。
水嶋:その「やっていたこと」にはFacebookでの情報発信もある?
宮本:はい。
水嶋:「ベトナム人技能実習生の理想&現実」ですね。前にも伺ったことはありますが(2年前の記事)、どういう経緯で始められたんですか。
宮本:2017年頃、この業界の汚いところにイライラが溜まり吐き出すところがなくて、愚痴の捌け口としてなんとなく始めました。当時を読み貸すと言葉遣いが荒くて危なっかしい(笑)。最近は考えの整理も兼ねた情報発信の色が強く、ベトナム語の情報を日本語で、日本語の情報をベトナム語でといった具合に書いています。
水嶋:その「汚いところ」について具体例を言えますか?
宮本:パンドラの箱的な…実は手数料は引越し費用やキックバックが入って3600ドルじゃないとか、違法に「監理費を下げてほしい」とか「接待してくれ」とか平然と言ってくる日本の協同組合(※)もいるとか、間に日本人やベトナム人のブローカーがいてお金の動きがややこしいことになっている、とか。危なっかしいです。
※監理団体とも呼ばれますが、本文では「協同組合」に表記を統一します。
水嶋:当初から会社の職員としてやられていたんですか?
宮本:前職のときにはじめたやつですが、個人として好き勝手書いていました。
水嶋:ここ2年くらいで日本でもよく報道されるようになった内容が多いと感じますが、それを5年も前から、しかも現場から発信してきたということですよね。
宮本:そうですね。これまでに日本のだいたいのメディアさんからご連絡いただいてます。
水嶋:調べれば宮本さんのところに行き着きますもんね。連絡があれば取材は受けている?
宮本:基本的に断ることはないですね。
水嶋:それはどういった理由で?
宮本:多くの人に実態を知ってほしいからです。2016年の技能実習法(正確には「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」)の制定以降、協同組合はすぐに受入許可申請ができるようになり参入障壁が下がりました。そこでやはり事例が多いからという理由で「まずはベトナムから」という組合が多いのですが、日本から見えない部分も多く、ヘンな穴にはまらないためというか、少しでも知った方がいいと思ってやっています。
水嶋:発信を続けてきた中で、業界全体で変化は感じますか?
宮本:(実習生が払う)手数料は間違いなく下がってますね。ベトナムで募集をかけてもそもそも応募が少なくなっているということもあります。最近では、年間1000人からというスタートですが、オーストラリアもベトナムからの外国人労働者の受入を開始しましたし。物価の違いもあるので一概に比べられませんが、基本給35万円近くという。韓国も今後は年間1万人という受入枠を広げてくるでしょうし、選択肢が増えることで相対的に日本の価値は下がってくると思います。
水嶋:受入企業には、選択肢が日本くらいしかないと考えている節も感じますよね。いくつか行き先の候補がある中で選ばれているかもしれない状況で、少なくとも日本としてはただあぐらをかいていい状況じゃないんですよね。今後も働き手を求めるなら。
宮本:そうした考えなどが積もり積もった例が岡山の件(※)だと思うので。あれがたまたまクローズアップされただけで予備軍にはいくらでもいると思いますが、暴力にフォーカスが当たりすぎてなぜ起こったかという背景に触れられていない。社員さんの人間性なのか、コミュニケーションが取れないことなのか、いろんな要因があると思うんですね。実習生に日本語を勉強させるとか、社員が伝わりやすい日本語を勉強するとか、いくらでも方法はある。暴力が起こりました、処分しました、ちゃんちゃん、だとまたどこかで起こる話です。
※岡山市内の建設会社で当時41歳のベトナム人技能実習生が2年間に渡り日本人社員から暴行を受け骨折などの被害。監理する協同組合は認定許可取り消しの行政処分(参考)。
LACOLI外観
コロナ禍で明暗が別れた送り出し機関
水嶋:長い間あったコロナ禍の入国規制が緩和されたじゃないですか。技能実習生の受け入れも再開していますが、送り出し機関の立場として状況はいかがですか?
宮本:めちゃくちゃ変わりましたね。昨年1月21日に規制された頃は「すぐ再開するでしょ」という空気があったけど、ベトナムも感染が広がり、今年3月1日まで止まりっぱなしでした。今順次送り出しを再開していて、3月末、4月末、そして昨日と、50人くらい。 ※取材日は5/19
水嶋:この規制で、ベトナムからどれくらいの人数の入国が止まってたんでしょうね。
宮本:昨年10月時点で在留資格認定証明書が発行されたけど入国していない人が11万人程度で、技能実習生の半数がベトナム人だから、6万人はいたんじゃないですかね。2~3万人は一年以上待機していたんじゃないでしょうか。
水嶋:技能実習生を目指す方が送り出し機関にいる期間は半年、待っても長くて一年だと思うんですけど、こうして日本に入国できない間、みなさんどう過ごされていたんですか?
宮本:技能実習生として行くことは決まったけど、まだN4(日本語能力試験で得られる資格、能力が低い方から高い順にN5からN1まである)が取れてないという子はオンラインで勉強していました。それも取得できている子に関しては、故郷でアルバイトしながら過ごしていましたね。
水嶋:昨年の1月21日から今年の3月1日まで丸っ切り入国できなかったと考えると、中には実習自体を断念する人も出てくるのかなと思いますが、そのあたりはどうですか?
宮本:もちろん、折れた子たちもいますね。うちは少ない方だと思いますけど、(入国規制以前から数えて)2年も経てば、人生計画も変わりますし、人によっては結婚もしますし。
水嶋:実習候補生にとっても辛かった時期ですが、LACOLIとしても大変だったのでは?
宮本:そうですね。送り出し機関は、技能実習生が入国しないと最終利益が確定しないという、キャッシュフローが良い仕組みではないので、他社では実際に閉めてしまったという話も聞きます。ただ、実習生に来てほしいという企業には待っていただけますし、義務でも何でもないですが、支援金をいただくということもあったので、大変は大変だけど、うちは大騒ぎするほどのことではなかったです。
水嶋:以前、岡山の協同組合の三好さんから伺った話で、「母国で待機中の技能実習予定の人たちとはオンラインでこまめにやりとりしていた」という話がありました。一時的に故郷に帰る例もあると考えると、送り出し機関としてもそうしたやりとりがあったのでは?
宮本:ありましたね。二極化とまでは言わないけど、そこで実習予定の子たちと関係を保てる送り出し機関かそうじゃないかで(彼らの心が折れるかどうかが)別れちゃったんじゃないかな。
水嶋:それって結果的に、このコロナ禍による入国規制で、ある意味では健全とも言える、実習予定の人たちときちんと関係を築いている送り出し機関が絞り込まれたと言えますか?
宮本:それはあると思います。日本側から見ても、コロナ禍でまったく連絡が取れなくなっちゃった送り出し機関もあるそうですし、少なくとも職員が解雇されたことでレスポンスが悪くなってしまったという話も聞きます。そういう対応が見えやすくなったのは、協同組合や受入企業、送り出し機関、お互いにあると思います。
ノイバイ空港で日本に向けて出発する技能実習生のみなさん。待機期間は1~2年という長きに渡ったためか、心なし面持ちが凛々しい。
実習関係4者の間で将来設計の実践&フォローが必須
水嶋:技能実習生の課題の話に戻ります。さっきの暴行事件の話もそうですが、そもそも、コミュニケーションに問題があるのでしょうか。宮本さんのご意見を伺いたいです。
宮本:実習生は根っこが出稼ぎなので、日本語への学習意欲は基本的にないのが当たり前なんですよね。今日び、日本語ができなくても生活が送れてしまう。業務も同じことの繰り返しだと、慣れてしまえば日本語もそれまで。スーパーに行けば値札もあるし、金額もレジで表示される。実習生の方も、どうせいずれ帰るし、別に勉強しなくてもねとなっちゃう。
水嶋:そんな状況で、関係や環境の改善において何ができると思います?
宮本:日本へ行く前に将来についてどう考えさせるかということですね。送り出し機関で勉強しているときに、先々の話をしているのか。惰性で日本語を学んでいる子だと3年や5年でいくら稼いで終わりとなっちゃうんですけど、きちんと日本語などを学んだらその先に何ができるのか説明する。さらにそれを上から下まで同じことをやっているかという話です。
水嶋:上から下というと?
宮本:こうしたことを送り出し機関だけがやっても、協同組合や受入企業が「(日本語を勉強しなくても)仕事さえしてくれればOK」となれば、やはりそちらに流れていっちゃう。ベトナムは6ヶ月で、日本は3年、長い方に染まって当然です。なので、将来設計をした上で、日本の環境で同じ考えが共有されていれば、本人も嫌々ながら勉強はすると思います。
水嶋:ベトナム人や技能実習生に限らないですが、周りの影響って重要ですよね。沖永良部島でも、日本語をすごく勉強して、今は特定技能の資格を取って大阪で介護士として働いている子がいるんですが、彼はベトナム人の同僚が3人いて、一人だけ出身も年代も違った。ベトナム人としては孤独だったかもしれないけど、カトリックだったので地域の教会に通うことで、日本人の信者の人たちとも接点ができた。地域の日本人が孤独を埋めて語学力が伸びたことが、後につながったと思うんですよね。もちろん、「静かな場所が好き」と言っていたので本人の性格もあるだろうけど。
宮本:それは正しいと思います。先輩に引っ張られてしまうことはあって、周りが勉強をしていると、その職場の実習生は代々日本語が上手になる確率がめちゃくちゃ高いですね。逆に先輩たちがまったく勉強しないと、じゃあ自分も、となる。ベトナム人に限らず、誰しも易きに流れる。そこで最初の入口をどうするか、協同組合や受入企業がどのようにサポートしたのかはかなり大きいと思います。実習生が日本語の勉強を続けて、どこかでもう大丈夫っていうラインがあるじゃないですか。そこで先を見せて引っ張り上げられるかどうか、それとも惰性でいくか、2つに分かれる。前者がうまくいけば、そのあとの後輩も続く。
水嶋:先輩の重要性ってすごくあると思っているのですが、メディアにおける日本の技能実習生にまつわる話で、先輩がどうとかあまり議論されてなくないですか?
宮本:ないですね。逆に、受入企業や協同組合にしても、「先輩がいるから大丈夫」と言って指導を投げちゃう。
水嶋:先輩がベトナム語で教えるから、後輩がベトナム語で理解して、というのは雇っている側からしても楽だと思います。だけど知らない間に内容が本来と少しずつ変わっていたり、新しいことを教えるときに語学力が追い付かなかったりと、弊害化もあると思います。
宮本:水嶋さんもご存知の通り、日本人経営のベトナムの日本食店が、日本人が現場から離れることでレベルが段々と下がっていく現象と同じ理由ですね(笑)。
水嶋:それ、めっちゃ分かりやすいですね(笑)。日本人向けなのに、現場レベルで意図しないローカライズが起こってしまうっていう。同じ国籍で固まることによる分断。と考えると、「地域の生活講習会」みたいな、技能実習生として来たばかりの人に、バスの乗り方やスーパーの紹介を地域の日本人側が教えながら回ることができないかなと考えているんですよ。来た直後にやりとりして友人になることで、その後で働きはじめたあとも、いざというときに頼ってもらうこともできるので。
宮本:そうですね。最初の方が、右も左も分からず、聞く耳も持っているので。ちゃんと話を聞こうとするのは間違いないと思います。
ベトナム人技能実習生は今後減ってもゼロはない
水嶋:今、技能実習制度を廃止しようとか、特定技能に一本化しようとか、いろんな議論が起こっているじゃないですか。宮本さんに何かお考えがあれば伺いたいです。
宮本:今は法務省が有識者会議を開いて見直しを図ろうとしているんですけど(※)、なくなりはしないだろうと思ってますね。特定技能は予想通り都市部に集中しているので、技能実習制度と一本化していくことはない。そのままか、それに近い制度は残るかなと。10年後となるとさすがに分からないけど、5年後は残っていると思います。
※このインタビュー以降、7月29日に法務大臣が見直しを発表した(参考)。
水嶋:では、やはり母数が多いので、技能実習生関連の問題でもベトナム人が目立ってしまう。国も発展の最中にある。ベトナムからの技能実習生の増減、という点ではどうですか?
宮本:先細ることは間違いないですが、目に見えて激減することはないと思います。
水嶋:理由は?
宮本:今、技能実習生の55%がベトナム人、22~23%が中国人です。中国人はピーク時の半数くらいまで減っていますが、それでもこれだけ維持している。あれだけ発展している中国ですらこうなので、ベトナムも間違いなく減るでしょうが激減したりゼロになることは確実にないと思います。
水嶋:確かに。
宮本:受け入れる実習生の国を変えるって、企業さんや組合さんにとってストレスなんですよ。日本で新しい通訳さんを探さないといけないし、国によって宗教の問題もある。先輩と後輩の国籍が変わるなら、どのタイミングで切り替えるかという話も出てくる。工場だったら設備の説明も変えないといけない。変えないで済むなら変えない方がいい。今、ベトナム人実習生と良い関係性を築けている企業さんや組合さんは、今後も同じ形で生き残っていくと思います。ベトナム人の技能実習生が半数になれば、送り出し機関も半数になるでしょうし、組合さんも同じですが、何かしらのメリットが提供できないと淘汰は進むと思います。
最近の実習生は「今どきの若者」の印象
水嶋:長くベトナムの技能実習生を見てきているじゃないですか。変化って感じますか?
宮本:おじさん的な発言なんですが、「今どきの若者が増えたな」と思いますね。昔は、分かりやすくハングリーな子が多かったんですよ。一攫千金じゃないけど、人生をガラッと変えたい、シッカリと稼ぎたい、そう考えていた。ベトナムでは女性はもともと表に出す傾向ではないですが、とくに男性が多かったですね。それが最近の18歳や19歳は今どきの若者という感じで、軽いなと。技能実習生として海外に行くお金ってたとえ適正な価格でも月収3万円そこそこの彼らにとっては大金で、日本でいえば何百万単位の感覚。ヘビーじゃないですか。家族はその感覚かもしれないけど、本人を見ていると軽いなって感じはしますね。
水嶋:なんででしょうね。
宮本:やはり経済の発展に伴ってだと思います。昔に比べて生きるか死ぬかという極貧な状況じゃない。もともと日本に比べて精神年齢が低いなというのはあるんですけど、さらにそこに「軽い」というのが加わった印象はあります。
水嶋:これは勝手な想像なんですが、今はいくらでもインターネットでコンテンツが見られるじゃないですか。その過ごし方の自由さが心の余裕を持たせているのかなーと思います。
宮本:それはありますね。ベトナムでも昔は過ごし方が限られたけど、今は50円くらいでレモンティーが飲めたりと、時間を無駄に使うことに慣れてきたというか、なんというか。ダラダラと過ごせる選択肢が増えて、あくせくしなくても良くなったという気はします。
水嶋:バイト感覚というほどじゃないけど、昔に比べたら外国で働くことを気軽に捉えていると。
宮本:だと思いますね。本音は分からないけどそういう風に感じることが多くなりました。
水嶋:昔より軽く考えているとして、それが労働力に影響するところはあると思いますか?
宮本:姿勢と、業種や職場との相性は間違いなくあります。ガッツリと稼ぎたいところは、仕事量が多い職場だったらハマると思うんですよ。でも、ほどほどに稼いで、日本を満喫したい、自分の時間を持ちたいという子もいる。そういう子がそういう職場に当たっちゃうと「もうしんどい」「帰りたいです」となっちゃいますよね。
水嶋:なるほど…。これまで失踪の原因のひとつに「残業がなく稼げないこと」があると考えていたんですが、もしかしたら若い世代では逆パターンすらあり得るということですね。
宮本:そうですね。ある程度のラインを超えていれば、自分の時間をきちんと確保したい。それが過半数とまでは言わないけど、昔よりは確実に増えていますね。
水嶋:その話を聞いて「離島ってまずいな」と思ってしまいました。農業とも言えるけど、雨が降ったら働けないこともあるし、かと言って外に行っても都会的な娯楽が少ないし。
宮本:屋外の仕事がそもそも人気がないですし、農業だと季節ごとに給料も変動するので、全体的に人気がなく募集が難しいですね。島がというより、それが北海道でも東京でも、農業という仕事がそもそもそういうものというイメージがある。今は安定性が求められる傾向があって、惣菜製造などの工場系が人気です。残業が多くて稼げるからという訳ではなく、屋内の快適な環境で働けて、シフトが組まれていていつ働いていつ休めるかも明確という。
水嶋:結局のところ、労働者が外国人でも日本人でも、傾向は似てきそうですね。経済発展を背景にハングリー精神が薄れていっているとするならば、日本の受入企業や協同組合などが労働力を確保する上で、労働環境の改善が一番の近道という結論に行き着く気がします。
問題解決は、送り出し機関、協同組合、受入企業、技能実習生の4者がやることをやるだけ。
水嶋:さまざまな課題が山積みですが、宮本さんとしてはどうなってほしいと思います?
宮本:ものすごくざっくり言うと、送り出し機関、受入企業、協同組合、そして技能実習生、この4者がやることやればいい話なんですよ。それだけです。送り出し機関だけが頑張っても意味がないし、組合だけが頑張っても、会社だけが頑張っても、実習生も。全員が頑張らないと真っ直ぐ進まない。日本のメディアでは一箇所だけ切り取って報道することが多いですが、「なぜそこでそんな問題が起こっているのか?」と明らかにすることが必要。
宮本:岡山の件も、止めるタイミングはいくらでもあったはずなんですよね。被害にあった実習生は40歳前後で年齢を考えると日本語のコミュニケーションに期待が厳しいことは分かっていたはず。そこでなぜ組合はサポートしなかったのかと言えるし、(建設業は環境が厳しいことが知られる中で)送り出し機関が面接を断ることもできた。それをそれぞれがやらなかったからあれは起こりましたし、メディアで社名が晒されることも防げたはずです。
水嶋:それは、本来やるべきことを分かった上でやっていなかったのでしょうか。
宮本:もし分かっていないのであれば、その知識でこの制度に入っている時点でアウトですね。分かっていない訳がない。知っててやっているはずです。
水嶋:以前取材した三好さんが話されていたことですが、「協同組合(監理団体)が監理するのは技能実習生ではなく受入企業」だと。でも、その協同組合が企業に対して教えるべきことを教えていなければ、そもそも企業が知らないことも起こりえますよね。
宮本:そうです、だからパートナー選びって大事なんですよ。監理ができる組合さんであれば、外国人技能実習生を受け入れるメリットとデメリット、そしてリスクもちゃんと説明する。それでも受け入れるならちゃんとやってくださいねと、話しているはずなんですよ。安い労働力ですよとか、残業をいくらでもしてくれますよとか、適当に説明していると、当然トラブルは起こりますよね。もちろん、綺麗事だけでは進まない部分はあります。でも「最低限のことはやろうぜ」というのは本当に思ってて、選ぶ協同組合のせいで、覚悟や準備が不足する企業はそこそこあるなと感じるんですよね。ベトナムから即戦力が来る訳ないんですよ。国が違えばやっていることもそもそも違いますし、同じ業種で働いていたとしても使う道具の安全基準が同じじゃない。語学だって、半年間勉強して話せるなら日本人は全員英語ペラペラやんと。実習生がどんな日本語が分かるのか、分かっていない企業さんは多い。
宮本:先日、実習生を見送るためにノイバイ空港に行ったら、観光客らしい50歳くらいの男性が実習生の子に話しかけてきて、それが方言混じりで喋りも早くって、困っちゃってたんです。その反応を見てその日本人の方が、「なんで日本に行くのにこんな簡単なことも分からないんだ」と言うんですが、自分の日本語が外国人に難しいということも分からない。「分かる訳ないやん」と苦笑いしながら様子を見てたんですが、それと同じことが現実に日本の企業でも起こっている。ちゃんとした協同組合と、ちゃんとした企業との関係ができていないと、こういう状況が今もあるだろうし、これからも起こる。まるで縮図の様でした。
水嶋:これは言ってもしょうがないのですが、多くの日本人は外国人という視点を経験しないし想像する機会も少ないから、自分の言葉が分からないことも分からない。と思います。
宮本:受け入れ企業も、社長さんだけがよくても意味がなくて、社長は本当に素晴らしいけど、現場の方々が付いて行けていない場合もある。そんな中で技能実習生を受け入れると、「日本語が話せない外国人を連れてきやがって」とストレスになってしまうんですね。
水嶋:宮本さんの話を聞いて改めて思ってしまったのは、コミュニケーションは大事だという考えに変わりはないけど、技能実習制度は根本的に問題が起こりやすい構造だよねと。たとえ「コミュニケーションが大事」と言っても、それを理解しない人もまだまだ多い。自分の活動に照らして、いっしょに変えられるところとの草の根活動が続くな、と痛感します。
宮本:どこかひとつだけ直して改善できる問題ではなく、入口でずれるとすべてが掛け違う制度なので。企業さんだって、残業バンザイな安い労働力が来ますよと言われたら、真に受けちゃうじゃないですか。リスクとメリットを聞けば、ある程度覚悟だってできるじゃないですか。仕事の経験があまりなくて、日本語も上手じゃない外国人が来ますが、面倒を見れますかと、念を押されていればまた対応も違ってくるじゃないですか。新規参入したばかりの組合さんでたまに「技能実習生は日本語結構話せるんだよね」とおっしゃる方がいるんですが、ご自身で考えてみてほしい。これまで小中高で散々英語を勉強してきて、あなたイギリスで働けますかと。ここが分かっていないとその組合さんは企業さんに説明できません。
宮本:水嶋さんのコミュニケーションツールも、まず相手が入口で理解しているかなんですよね。そのコミュニケーションをなぜ取らないといけないのか、入口で分かっていなければ、やらない。残業バンザイの安い労働力と事業者さんが考えていれば、仕事さえしてくれるならコミュニケーションなんて要らない。実習生もまた、どうせ3年で帰るからコミュニケーションなんて要らない、となっちゃう。送り出し機関、協同組合、受入企業、技能実習生、上から下までやることやってる関係性の中にコミュニケーションツールとしてバチッとハマると良いものだと思う。逆にそうでないところに挟まっても、異物にしかならない。
水嶋:本当に、本当にそうだなと思います。ツールも見せる相手によってまるで反応が変わってくる。使えると褒めていただけるか、冷ややかな目で見られるか、なぜそんなものを何のために作ったのかとキョトンとされるか、だいたいこの3パターンです(笑)。
宮本:だと思いますね。
水嶋:最後に、LACOLIとして、今後の展望などをお聞かせください!
宮本:今後、ベトナム人実習生は確実に減っていきます。その中で彼らに選ばれる、日本に選ばれる送り出し機関でありたいですね。年間の人数も自分たちで面倒を見られる範囲で背伸びせず、改善も図りつつ、新しいことにも取り組んでいきたいと思っています。
水嶋:ありがとうございました!
4者の足並みを揃えられるのは誰なのか
今回の取材を通して改めてしみじみと、宮本さんって本当に勉強されているなぁと。
冒頭でも書きましたが、技能実習まわりについて解決しようと取り組む方って、基本的には記者やNPOなどの外側の方が多く、もちろん中には健全な運営に取り組む協同組合や受入企業のみなさんもいらっしゃるのですが、送り出し機関の声ってほんとに聞かないんです。
そもそもベトナムに関して言えばほぼベトナム人経営だったりするので、日本語で日本人に向けて発信することにハードルが高いと言えますが。そう考えると案外ベトナム語でベトナム人に向け「ちゃんと考えろよー」なんて発信する送り出し機関もあるかもしれません。
何が言いたいかというと、日本から見るとブラックボックスになっていることも多く、だからこそ送り出し機関としての立場から発信している宮本さんの視点と情報ってすごく価値が高いと思うんですね。有識者という言葉がありますが、宮本さん以上の現場を知る有識者ってなかなかいないのではないでしょうか。いたら逆に話を聞きたいのでご連絡ください。
送り出し機関、協同組合、受入企業、そして技能実習生、4者がやることをやればいいというのは本当にそうで、でも関わる人間が多いからこそ足並みを揃えて動けるところは稀と思います。しかも利害関係がある以上生活に直結するから、動こうにも動けないこともある。
LACOLIのようにSNSで発信していれば、類は友を呼ぶという形で、ちゃんとしたい協同組合と、ちゃんとしたい受入企業が、スクラムを組んでできることはありそうですが(と書きつつも、そこでまとめられる唯一の立場にあるのは国じゃないの!?とは思います)。
そこでもしかしたら、そんな利害関係とは本来無縁である「地域(行政や地域住民)」って、さすがに海を隔てた向こうにある送り出し機関まで巻き込むことは難しくとも、同地域内の協同組合と受入企業と技能実習生に対して働きかけることはできるのではないかなと。
そうした人のためのツールをつくろう、と思いを改めました。
文:水嶋 健
写真提供:宮本さん(LACOLI株式会社)
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