沖永良部島で「やさしい島生活ガイド制作事業」第1回協議会を開催しました

2023/07/07

沖永良部(おきのえらぶじま)で合同会社オトナキ(弊社)が、「やさしい島生活ガイド」という外国人住民向け生活情報冊子を制作することになり、先月15日に第1回協議会を開催いたしました。事前に実施したアンケート回答に基づき、15人の協議メンバーとオブザーバー(見学者)の方と話し合い、仕様の方向性が決定。11月の冊子完成、12月のバスの乗り方講習会実施を目指し、制作を進めていきます。

媒体各紙でもご紹介いただきました。

 

南海日日新聞社:外国人が住みよい島に 協議会発足、議論深める 無料冊子、島生活ガイド制作へ 沖永良部島・オトナキ
奄美新聞:「やさしい島生活ガイド制作協」発足
奄美群島南三島経済新聞:沖永良部島で外国人住民向け生活情報ガイド制作へ 住みよい島目指す

 

はい。

ひとまず概要をざーと書いてみましたが、「はて、何の話?」とお思いの方に説明します。

そもそも沖永良部島ってどこ?という方に。鹿児島県にある離島で、奄美群島のひとつに属しています。私の出身は大阪ですが、島にルーツがあるいわゆる「えらぶ二世」(母の出身地)です。2011年からベトナムに住んでいたのですが、島に100人近いベトナム人の技能実習生が住むと知り、気になって来島したときに外国人実習生と日本人島民の交流会に参加。その後、2020年7月に移住、それがオトナキ起業のきっかけにもなっています。

これでもだいぶ端折りましたが、経緯についてはこちらの記事に詳しく書いてあるので、ご興味のある方はご覧ください。

COMIGRAM開発の経緯や想いをトークショー・ガシドで話してきました

「やさしい島生活ガイド」とは?

話は戻って、やさしい島生活ガイドの話です。

簡単に説明すると、沖永良部島に暮らす外国人住民の方に向けて、島生活に必要な情報をまとめた生活情報冊子を制作します。

内容は、バスの乗り方、台風などの災害対策、日常で使える方言のフレーズ集、などなど。言語は、ふりがなを付けて、小難しい熟語や言い回しを避けた「やさしい日本語」を使います。各国言語版があればベターでしたが、これは予算の都合(翻訳、デザイン、印刷、まるっと×言語数のコストがかかる)と、日本語の学習資料としても有用であるためです。

オトナキは、知名町(沖永良部島は知名町と和泊町の2町1島です)からの委託先となります。なお、知名町は今回、和泊町と連携した上で、事前に申請した一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)が実施する「多文化共生のまちづくり促進事業」という助成の採択を受けています。なので、沖永良部島としての取り組みであると同時に、結果として、他地域に参考となる事例を目指すことも大事になります。

つくる理由①:沖永良部島は外国人住民が多い

沖永良部島には100人近いベトナム人実習生がいると書きましたが、それは多いのか、少ないのか。基準にもよりますが、少なくとも鹿児島県というくくりで見たときに、「とても多い」と言えるかと私は思います。

2022年12月時点の統計では、和泊町と知名町の両町を合わせて153人の外国人住民が暮らしており、これは総人口の1.3%にあたります。同年の日本の外国人人口比率が約2.3%ということを踏まえると、少ないようにも感じますが、企業や学校の数が大きく違う都市部と地方を単純比較はできません。鹿児島県の平均値が0.87%なので、それのほぼ1.5倍。つまり、「1000人中、鹿児島県は7人、沖永良部島は14人の外国人住民が暮らしている」ということになります。とても多いですね。

ちなみに、沖永良部島のある奄美群島で比べると下記の通りです。

  • 沖永良部島:153人(1.3%)
  • 与論島  :14人(0.27%)
  • 徳之島  :116人(0.51%)
  • 奄美大島 :186人(0.31%)
  • 喜界島  :48人(0.71%)
  • 鹿児島県 :13,975人(0.87%)

ご覧の通り、断トツです。

背景については、確かな事実として、農業が主幹産業であることは大きいかと思います。以前から、沖永良部島の農家さん方は、新たな農機の導入や品種の栽培に積極的に取り組む姿勢があると聞いています。そうした気になるものはやってみるという「進取の気性」が、技能実習生制度の活用につながり、高い外国人人口比率に影響している部分はありそうです。

それで、言語や文化の違いに関わらずみなさんがハッピーに暮らしていればよいのですが、今から4年半前、2018年11月、インターネット上でこのような記事が公開されました。

「実習生が逃げていく島」町民があえて監視を置かない「深い理由」

詳しくは記事をご覧いただくとして、島で起こった技能実習生の失踪について書かれています。ちなみに、全国の技能実習生の失踪はこの記事が書かれた2018年時点で9052人。技能実習生全体の328,360人に対して2.7%。失踪が起こるような環境があること自体はネガティブですが、特別、沖永良部島だけが失踪者を生み出しているという訳でもありません。しかし、「実習生が逃げていく島」というセンセーショナルなタイトルが、島に与えた衝撃は大きかった。これについては和泊町議会でも議論されているので、検索してみてください。

ただ、一方で、この記事をきっかけに動いた島民の方もおりました。はじめの方に書いた「来島したときに外国人実習生と日本人島民の交流会に参加した」というのは、その人物(沖永良部島の若手農家集団、エラブネクストファーマーズ代表の要秀人さん)がベトナムのテト(旧正月)に合わせた開催した交流会になります。

春節テト交流会in沖永良部島

下記は、当時、私が参加後に間もなく、ブログに書いた記事です。

「実習生が住みよい島へ」 離島でテト春節交流会をひらいたらダンスクラブ化した話

つくる理由②:島生活は日本人でも知らないことが多い

交流会への参加がきっかけで島に移住した訳ですが、当の技能実習生としてやってきたみなさんが困っているかどうかは分かりません。

その交流会への参加者も、島全体の外国人技能実習生の半分くらいで、もう半分は来ていません。沖永良部島も、島といっても全周60km近くある島。基本的に、雇用主の方が車を出さなければ来れない訳ですが、実習生自身が来たかったのか来たくなかったのか知る術もありません。ただ、実際に住んでみて、外国人の友人たちができる中で段々と分かってきたことは、というよりどこかで分かっていたはずなのに認識に時間がかかったことは、「移動手段がない」ということでした。

移動手段は雇用主の方から貸し出される自転車で、スーパーへの買い出しも、場所次第では往復15kmも当たり前。仕事が農業の場合、雨が降ると休みになることもありますが、雨だからこそ自転車は大変、という状況があります。雇用主の方で車を出すのも、毎回は大変です。そこで島には便利な「バス」という公共交通手段がありますが、外国人住民の方に話を聞くと、バスの存在は知ってるけど、乗ろうと思わないのですね。理由を聞くと「分からないから」と。

島のバスは、対応が柔軟です。ルート上なら、手を挙げれば停まって乗せてくれるし、降りたければ言えば降ろしてくれます。それはルールをガッチリ固めるよりも、相手によって合わせる、ある種のやさしさだと思うんですが、そのやさしさも意思疎通ができてこそ。言語の壁があり、ルールも言語化されていない(されていたとしても母国語で分かるかはまた別)。私自身もベトナムに長く暮らしていたので、その分からないことの恐怖はものすごく分かる。個人的には、周りにベトナム人の友人が多かったのでずっと助けられて来ましたが。

そう思うと、島生活って特殊だなと。電車がない、バスはどこでも乗れてどこでも降りられる、言葉のイントネーションが分からない、なんか夏にでっかい台風がしょっちゅう来る、ゴミの袋に自分の名前を書かないといけない、検索しても英語ですら情報が出てこない…。

技能実習生や特定技能の外国人の方は、日本入国前後に日本生活についてのオリエンテーション(研修)を受けるのですが、それらの内容は「日本の生活ってだいたいこんな感じ」な訳ですべてが沖永良部島(離島)という場所での暮らしに当てはまるとは言えません。もちろん、日本語(イントネーション込みで)ができればそれらも克服できるのですが、あえて明記すれば、目的は「留学」ではなく「出稼ぎ」です。そのレベルまでストイックに学び続けられる人は少ないだろうなぁと。

そこで今回、やさしい日本語とはなりますが、生活情報を伝える冊子を作ることに至った訳です。

最大の目的は「出会いのデザイン」

と、まぁ、3年暮らす中でそうした話を聞く機会はしばしばあり、上京して自治体国際化協会(CLAIRさん)を訪問した際に「まちづくり促進事業」のことを教えてもらい、両町の担当職員の方との調整を進めてきたり、島で鹿児島県や鹿児島県国際交流協会さんによる講座があったことなど、いろーーんな要素が絡み合っているのですが、たくさんの方々のご協力もあり、ようやく6月15日に外国人住民向けの「やさしい島生活ガイド」制作事業の第一回協議会を開催することができました。

あくまでスタート地点に立てたというところですが、がんばりたいと思います。

なお、「生活情報を伝える」とは書いたのですが、それは前提だと思っています。

というのも、以前から中国人の友人からも個人的にリクエストを受けていたのですが、「日本人の友人をつくる場、日本語を学べる場がほしい」と。今回、事前にアンケートを行い、24人の外国人住民の方から回答をいただいたのですが(10の雇用事業者からもご回答いただきました)、その中でも多くの回答数がありました。

個人的に「支援」という言葉は好きじゃないのですが(支援する側と支援される側という対等でないイメージがあるため)、あえて支援という言葉を使えば、お互いに「気の置けない友人がいること」が最大の生活支援だと思っています。そして、それは、インフラが決して盤石ではない離島がもともと持っていた、人と人との支えあいだからこそ為せることだと思っています。

先日の協議会でも話に触れたのですが、冊子に載せるトピックには「日本人のサークル(コミュニティ)情報」も掲載予定です。というのも、これまでに島で出会った外国人の友人たちで、「楽しんでいる」と話す人たちはみんな、職場以外の、何かしらのサークルなどコミュニティに属していたんですね。バレーとか、カトリック(教会)とか。スポーツ、信仰、言語の壁があっても親しくなれる最高の共通項ですよね。下記は沖永良部島に住んでいたベトナム人青年へのインタビューです。

コラム・多文化共生を解く第2回:人間関係と地域の居場所

下記は、バレーサークルにインドネシア人青年が出入りしているという記事です。

沖永良部島のバレー同好会にインドネシア人青年ら合流 汗を流して地域交流

なので、今回の冊子は、外国人住民(地域の多数派と異なる言語と文化の壁がある方)が、沖永良部島で暮らす人たちがもともと持っている、支え合いの輪の中に入るきっかけをつくるプロジェクトだと思っています。

最後に、これもまた重要なことですが、今回の事業を進めるにあたって、技能実習生の方が増えはじめる直近10年よりさらに前、フィリピンやインドネシア、中国など、結婚を機に来られた方もいるということを知りました。フィリピン人の方についてはぼんやりとは知っていましたが、今回協議会メンバーに入っていただいた方を通じて、解像度が高くなり、そしてまた違った問題があるということも分かりました(たとえば、子どもが学校でもらうお便りが漢字ばかりで読めないなど)。

今回の冊子でフォローできること、できないことがあると思いますが、継続してできることをやっていこう(そのためにも自分自身もきちんと生活できるようにしていこう)と強く思った次第です。

ご興味のある方はお問い合わせよりご連絡ください。島内外に限りません。

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