名古屋のベトナム人✕日本人で謎解き交流!大山和馬さんインタビュー:多文化共生を解く第5回

2022/08/04

インタビューコラム「多文化共生を解く」第5回

このインタビューコラム「多文化共生を解く」では、私(水嶋)が出会った、素敵だな、おもしろいな、と思う人にどんなことを考え、工夫をしているか、どんな変化が社会に必要と思うかなどお話を伺います。詳しい企画概要は第1回冒頭で。

過去のバックナンバーはこちら。

第1回:監理団体とITツール
第2回:人間関係と地域の居場所
第3回:子育てから広がる世界
第4回:NPOから見た13年の社会の変化

全国でも外国人居住者の人口がとくに多い、東海圏。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2020年の国勢調査を基に作成したデータによると、各都道府県の外国人口比率において、愛知県は東京都に次いで2位(3.44%)。それ以外の東海3県は、三重県は4位(2.91%)、岐阜県は6位(2.73%)、静岡県は8位(2.54%)ととても高い割合を示しています。

東海圏に外国人の方が多い背景には、90年代にデカセギとして日系ブラジル人の方が来日したという経緯がありますが、最近では全国的にそうであるように、留学生や技能実習生、また特定技能といった資格により滞在する方も増えています。

そんな地域の中心地である名古屋市。そこで2018年に発足した「名古屋ベトナム交流会」という、ベトナム人と日本人の交流イベントを行うある団体があります。

これだけ全国各地に外国人の方が暮らす今、交流イベントは珍しいことではありません。しかし、その企画内容がとってもユニークだったこともあり、同交流会の代表を務める大山和馬さんに取材をお願いしました。

私と大山さんをおつなぎいただいた、交流会の企画をよく考えられているという鳶田(とびた)さんも会話中に登場します。

オンラインでインタビュー。右上から時計回りに、私、大山さん、鳶田さん。

ベトナム人と日本人で協力して謎解き

※発言者は敬称略

水嶋:まずはイベントについて、頻度や規模について聞かせてもらえますか。

大山:コロナ禍もあって数は減りましたが、基本的には3ヶ月に一度の頻度で企画していて、ベトナム人と日本人が毎回30人前後集まります。あまり日が空いてしまうと次回集まりづらいと思うので、緊急事態宣言が明けたタイミングで開催したりとしてきましたね。

水嶋:30人とはすごい!ベトナム人と日本人はどんな立場の方が参加しますか?

大山:ベトナム人は、留学生と技人国(「技術・人文知識・国際業務」という在留ビザ)の方が多く、後者はエンジニアが多いですね。技能実習生は少ないですが、数名参加するときもあります。みなさん、日本語が話せる人が中心です。日本人は学生が多めです。

交流会の写真。なんと25mの流しそうめんを実現!

水嶋:交流目的となるとやはりそうですよね。肝心のイベント内容はどんなものですか?

大山:企画でも一番力を入れているのが「謎解きゲーム」です。

水嶋:謎解きゲーム。

大山:これまでも日本で「リアル脱出ゲーム」などの謎解きゲームはありましたが、日本人がメインの対象で、あまりベトナム人は触れてきていないと思います。そこで、ベトナム人と日本人が協力しないと解けないような謎解き要素を盛り込んだイベントを行っています

水嶋:ベトナム人と日本人が協力…というと、具体的にはどのような仕掛けを?

大山:日本人には、日本人にしか答えられないような難しい漢字を使った問題を出したり、ベトナム人には、ベトナム語でクイズを出したりして、それぞれの答えを組み合わせることでヒントのキーワードが分かるような仕組みなどです。

水嶋:あー、なるほど!一定の語学力、参加者にとっては母国語ができないと解けないのですね。

大山:そうですね。

チームで協力して謎を解く様子

水嶋:謎解き以外には、これまでにどんなイベントをやられたんですか?

大山:貿易ゲームなどですね。私が小学生のときに道徳の授業で知ったゲームで、5つぐらいの国に分かれて、「資源はあるけどお金がない国」「資源はないけどお金がある国」と、これは先進国と新興国を想定しているんですけど、国同士で貿易(交渉)を行って、どこが一番資源を得られるか競うというゲームです。

水嶋:なんだかすごいインテリジェンスな感じですが、盛り上がったんですか??

大山:ベトナム人も勝負事が好きな人が多いので、すごい盛り上がってましたね。

水嶋:ビジネスゲームぽくて高度だなと思ったんですが、技能実習生も参加した?

大山:もちろん。

水嶋:へーーー。それはすごいな。

大山:チーム分けのときにあらかじめ、N1やN2くらいの日本語能力の高いベトナム人の参加者に各チームに入ってもらうよう割り振りをしたので、ベトナム人同士でルールを共有できるようにしたんです。それだけでも会話は生まれると思うので。

水嶋:なるほど、巧みですね。

大山:イベントの謎については、鳶田さんも日頃から考えられているんですよ。

水嶋:日頃から!

鳶田:はい。イベントの目的はコミュニケーションなので、謎も、ある程度の日本語(共通語)が理解できないと難しいところはありますよね。名古屋ベトナム交流会は日本語を話せる人が多いので、そこに頼っているところはありますが、今後は言葉ではなく図形を使うとか、日本語が話せなくてもコミュニケーションを図れるようなものにしていきたいです

水嶋:そうですね。通訳ができるレベルの参加者も、用事があったり、生活環境が変わったりで、イベントに参加できないタイミングもあるでしょうし。工夫は必要かもしれません。

大山:そうなんですが、イベントでのトラブルも含めて、運営だけでなく、参加者もいっしょにイベントを作り上げる意識をいかに持ってもらうかが大事だと思ってます。以前にBBQを行ったんですけど、食材を買って準備はするけど、実際の組み立ては参加者にやってもらうとか。足りないところは参加者に協力してもらうことも必要です。

水嶋:なるほど。前回は通訳できる人がいたけど、今回はいない。でもお互いに面識はあるし、頑張って意思疎通を図ろう。それもひとつのコミュニケーションと言えますもんね。

BBQをする様子

ベトナム人ホストマザーとの出会い

水嶋:そもそもなんですが、大山さんが名古屋ベトナム交流会を立ち上げる経緯というか、それだけベトナムに思い入れがある理由は何でしょうか?

大山:私は大学2年生のときに一ヶ月だけオーストラリアに留学したことがあり、そのときのホストマザーがベトナム人だったんですね

水嶋:あ~、そんな過去が!

ホストマザー(右)との写真

大山:子どもが二人いるシングルマザーで、自分のようなホストファミリーが全員で三人いて、働きながら子どもの面倒を見つつ、自分たちにも気をかけてくれる、すごいエネルギッシュで優しい方でした。一方でオーストラリアになぜベトナム人がいるんだ?と疑問に思いはじめ、ベトナム戦争を背景とした難民が多いと知り、ベトナムという国に対してより興味を持つようになったんです。

水嶋:そうなんですね。私自身は転職でベトナムに住んで…という経緯でしたが、大山さんはベトナムではないオーストラリアで、ベトナム人との出会いからはじまったんだ。

大山:留学後しばらくして、ホーチミンシティに旅行に行き、現地で出会う人にやはり親切にしてもらって、よりベトナムが好きになりました。

ベトナム旅行にて

交流会のきっかけは「日本人の友達ができない」という言葉

水嶋:名古屋で交流会を行うことになる、直接的なきっかけは何だったんですか?

大山:私はイオンでアルバイトをしていたんですが、そのときにベトナム人の同僚と仲良くなり、いっしょにご飯を食べに行くようにもなりました。そのときに彼から、「バイト先で日本人と関わりはあるけど、なかなか友達をつくる機会がない」という話を聞いたんです。同僚の話では、「日本人は外国人を睨む」と。当人にそういう意識はないんでしょうけど、それを聞いたときは衝撃的でした。それで、ベトナム人と日本人が知り合えるきっかけをつくりたいと思い、最初の交流会を企画したんです。

水嶋:名古屋だと、アルバイトをしている留学生にしろ、社会人にしろ、そもそも外国人が多い。ベトナムに思い入れができた時点で、交流会も自然な流れだったかもしれませんね。始めてから4年続いている訳ですが、はじめのイベントはどんな内容だったんですか?

大山:チーム対抗でジェスチャーゲームなどをやって、そのポイントを競うという内容でした。

水嶋:何人くらい参加したんです?

大山:30人ぐらいですね。

水嶋:30人!?いきなりすごい。その集客力、一体どういうマジックを使ったんですか?

大山:ベトナム人の友達がFacebookで声をかけたりしてくれて集まりました、「交流したいけどどうしたらいいか分からない」という人が多かったみたいです。

水嶋:潜在的にたくさんいたんでしょうね。日本人の方はどうやって集まったんですか?

大山:以前、企画関係のボランティアをしていたので、そのときの友人のつながりで集まりました。国際交流に関心のある人も多かったので、それも集まった理由かもしれないです。

水嶋:初回から盛り上がりました?

大山:盛り上がりましたね。最初はその一回で終わらせるつもりだったんですが、日本人の参加者の方から「こういうイベントを探していた、二回目もいっしょにやりませんか?」と声をかけてくれたこともあり、以降も続けることになりました。ちなみにその人は、ある大企業関係の仕事をしていたのですが、交流会をきっかけにベトナムにもっと関わりたいと思うようになり、ついには転職することになったんですよ

水嶋:名古屋ベトナム交流会が人生の転機になったのか…すごいな。

自分がいなくても交流が続くことが課題

水嶋:今後、交流会を続けていく上で課題はありますか?

大山:ありますね。リーダーシップが取れるメンバーが必要だなと。これまでは自分が、いつ・どこで・こういうことをやろうと言い出すことが多くて、メンバーがそれを聞いていっしょにやってくれるという流れだったんですが、私も仕事もあれば、この先転勤もあり得ます。そのときにイベントも継続できなくなるのではないかと、それが今の課題です。

水嶋:それはもう、プロジェクトをはじめた人、全員に共通する課題ですね…!

大山:とりあえず10年は続けたいという思いはあるので。本当はもっと続けたいですが、10年。その点で、リーダーシップがとれるメンバーがいないとまずいなと思っています。

水嶋:それ以外に課題はありますか?

大山:自分はもともと凝った企画が好きですが、ベトナム人と日本人の交流が目的だと考えると、企画の内容よりも開催数を増やした方がいいのかなとか。それは、参加者の期待に応えていきたいと思います。

COMIGRAMはゲームに使える?

ここで少し話は変わって、鳶田さんから「COMIGRAMはイベントの謎解きなどに使えるのではないか」という話が出てきたのでそちらのやりとりも載せておきます。

鳶田:COMIGRAMは仕掛けに使えそうな匂いがプンプンしてます(笑)

水嶋:やった、匂った(笑)。

鳶田:今はベトナム語も日本語も書いてあるけど、たとえばこれがどちらかしか書いてなくて、日本人かベトナム人がもう一方に、やってほしいアクションを指差しでやってもらうとか。まだフワッとしていますが、本気で考えたらいけそうな気がします。

水嶋:ゲーム的な使い方でいうと、クロスワードパズルみたいになっててもおもしろいかもしれませんね。ジェスチャーが伝わったら、マスに言葉を書き入れて…あ、でも、これだとジェスチャーだけでできてるからCOMIGRAM(イラスト)は関係ないのか!?いずれにしろ、組み立わせ次第でいろいろと展開できそうな気はします。

鳶田:ですね。一回やってみる!?

大山:使えそうですね。

日本に興味がある外国人は多い、日本人は積極的に関わりを。

水嶋:最後に、この記事を読む人に向けてメッセージはありますか?

大山:私がオーストラリアにいたときに、語学を学びたいと思いながらも、一ヶ月間の間では語学学校の先生以外、オーストラリア人と関わる機会が最後までなかった。そんなこともあり、日本人には、日本に来てくれた外国人に対してもっと積極的に関わってほしいというのは言いたいですね

水嶋:そうですね。外国人の方は事情はさまざまあるだろうけど、わざわざ日本に来ている時点で、大なり小なり日本に興味は持ってくれていると思います。その点では、ここが母国である日本人の方が、より意識して動く方がバランスはよい気もしますね。

大山:アルバイトで稼いだお金で留学したけど、オーストラリア人と全然関われなかったことがすごい残念だったので。そんな想いをする人を減らしたいと思っています。

水嶋:そのこと自体は残念ですが、一方でベトナム人のホストマザーを通して、ベトナムという要素が大山さんの人生に入り込んできたと考えれば、人はどこでどうなるか分からないものですね。

大山:はい。ホストマザーがベトナム人じゃなかったら、まず今の仕事(ベトナム人の就職支援)をしていないと思いますし、そのめぐり合わせはすごいと思います。

交流は、”おもしろければ”いいんじゃないか。

最初、鳶田さんから大山さんについて、「ベトナム人と日本人が協力する謎解きイベントをやっている」と聞いて、「ものすごく高度で、何よりおもしろいな!」と思ったんですね。

この「おもしろい」がすごく大事で。というのも、今日本では多種多様な文化を持つ外国人の方が増える中、いろんな「交流会」が行われていると思います。その主体は、行政だったり、NPOなど法人だったり、名古屋ベトナム交流会のような任意団体とさまざまですが。

そこでよくあると感じているものが、日本や地域の文化を一方的に伝えることに終始するイベント。交流の動き自体はとても素晴らしいのですが、一方で、「あなたの文化に興味はない」という間違ったメッセージを伝えてしまう危うさもあると思います。おもてなし精神は素敵なのですが、日本人が外国で歓迎されても、自国に興味を持たれないと辛いですよね。

そんな理屈っぽいことを日頃からああだこうだと考えているのですが、その点で名古屋ベトナム交流会は「その先」を行ってたなと思いました。インタビューで「コミュニケーションをとることが目的」と話されてましたが、それ以前にまず、イベント(企画)がおもしろいのでしょう。おもしろいから、30人もの人が常に集まるのでしょう。

交流の入口は、なにも文化でなくても構わない。おもしろい場があれば、そこで仲良くなって、自然とお互いの文化を知っていく。むしろ娯楽に特化している分、参加者もより楽しむことができそうです。そう考えると、謎解きってすごく良いツールだなぁと思いました。

見習わなきゃなーと、強く感じるインタビューでした。

 

文:水嶋 健
写真提供:大山さん(名古屋ベトナム交流会・代表)

 

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