インタビューコラム「多文化共生を解く」第3回
多文化共生を、聞こえの良いお題目から、具体的な実現できる目標に変えていく。
このインタビューコラム「多文化共生を解く」では、私、水嶋が出会った、素敵だな、おもしろいな、と思う人に、どんなことを考え、どんな工夫をしているか、どんな変化が社会に必要と思うか、お話を伺います。詳しい企画概要は第1回冒頭で。
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第1回:監理団体とITツール
第2回:人間関係と地域の居場所
第4回:NPOから見た13年の社会の変化
第3回のゲストは、東京都町田市鶴川地区に暮らす3児の母、西田真美さん。南アフリカの国レソトから日本にやって来たルーシーさんとの出会いをきっかけに、親子サークル「だんろ」を立ち上げ。同地区の日本人と外国人のお母さんたちに声を掛け、さまざまな交流活動に取り組んでいます。
左から並ぶ女性が、水林さん、西田さん、ルーシーさん。
だんろの参加者の一人である水林舞子さんが私の友人で、SNSを通して以前から「おもしろそうな取り組みをしているなぁ」と思っており、今回連絡をとったところ、西田さん、水林さん、私の3人でお話することになりました。
こんな話に広がりました。
・だんろは子育て支援と多文化交流をするサークル
・きっかけは南アフリカの国レソトから来たルーシーさん
・子どもは先入観なく興味で動き、親もそれに学ぶことが多い。
・育児は状況が変わりやすいので、メンバーの入れ替わりは課題でもある。
・インフラの享受につながるので、基本的なコミュニケーションは日本語で。
・だんろは大きな駅にある、荷物が軽くなるベンチのような存在。
子育てしながら多文化交流「だんろ」
※発言者は敬称略
水嶋:だんろの活動内容を教えてもらっていいですか?
西田:親子サークル、日本語タイム、あと短期大学の学生などとの地域交流会をやっています。2019年10月のコロナ前に始めて、今は不定期で開催している感じです。
水嶋:それぞれ、具体的にはどのようなことを?
西田:親子サークルでは、お母さんたちで子どもたちへの読み聞かせや工作をしています。外国人のママと、国際交流や多文化共生に興味のある日本人のママが友だちになることで、お互いに思いやれるいい交流が増えるかなと思ってやっています。
親子サークルで工作を行う様子
西田:日本語タイムは、コロナでいろんな情報をキャッチする上で(外国人の方は)日本語が必要で、日本語教師をしている友だちと「勉強する時間をつくろうか」と言って日本語でお喋りする会を月1回ではじめました。交流会は、地元の短大の国際課の学生さんと子どもたちがいっしょに遊んだり、学生さんの質問にママたちが答える座談会をしています。それこそ先日はマイコさんに、(東南アジアと関わる仕事なので)ミニ講演会を開いてもらいました。
水嶋:人数規模はどれくらいですか?
西田:イベントによってまちまちですが、多いときだと20~30人です。やっぱり日本人の比率が外国人の方よりも多くなってしまうんですけど。親子サークルは基本的にママと子どもしか参加できないイメージがあるので、学生さんや地域の外国人みんなが参加できるように「親子」から名前を変えようかと最近は考えています。
水嶋:親子サークルでやることに外国要素を取り入れることもありますか?
西田:私は夫の駐在の帯同でアメリカに住んでいたので、イースターやハロウィン、クリスマスといった文化を紹介したり。また、アメリカでよくクラフトタイムといって自分たちで工作をしてデコレーションしていたので、そういったものを取り入れて試行錯誤しています。
水嶋:外国人の方から持ち込み企画もありました?
西田:それは、ルーシーさん、だんろと私にとって大事な存在である人なんですけども。レソトという国をご存知ですか?
水嶋:レソト…いや、初耳です。
西田:南アフリカの真ん中にある小さな国で、ここから来たママがいて、レソトの生地を使って髪飾りなどをいっしょに作ったりしました。
水嶋:アフリカの布は色鮮やかなものが多いですもんね。お子さんも喜びそう。そうした小さい頃の経験って大人になっても覚えていたりするから、後々良い思い出になりそうですね。
西田:それが本当にいいなぁと思って。ママたちが興味を持つことで、子どもたちが影響を受けると思うので。親子の体験が共通の話題として残っていくというのはいいなと思っています。
レソトの布でつくった髪飾り
子どもが思いもよらない世界を広げてくれる
水林:私は2020年の8月に真美さんと会って。そのときにだんろと、レソトをはじめて知るまで、東南アジアにフィールドを置いていたのでアフリカに興味を持ったことがまったくなかったんですね。アフリカの布を見てすごいなくらいは思ってたけど、それが日常使いできる髪飾りになったり、ラミネートして本のしおりに使えたり、多文化を学ぼうと意気込まなくても、それらが「ルーシーさんの国のものなんだ」と親子にとって当たり前になっていった。
水嶋:そうですね。私も多文化共生と便宜上使っていますが、もっとラフに、子育ての中から入ってくるというのはすごい自然な関わりでいいなぁと思いました。仕事ではなく育児から入るから、自分の興味で選択しなかったであろうレソトという要素がぽんと投げ込まれてくる。
水林:大人になると好みって決まってくるじゃないですか。知りたい情報を無意識で選んでしまっている。育児って、子どもを通して、働く乗り物とか、電車の名前とか、自分のコントロールの範疇を越えてくるので、否応無しに知っていくんですよね。だんろにはそれがある。
水嶋:コントロールの範疇外という意味では、私の場合、今住んでいる島がそうです。たとえば、島民にトルコ人の方がいて、飲食店をやられているんですけど、「店名の由来はトルコの古語なんだよ」と教えてもらって「そういうのがあるんだな」と発見につながったり。それまでトルコに特別関心を持ったことがなかった。外の世界を教えてくれるってありますよね。
水林:社会人だと外と積極的に関わらなくても生きていけないほどは困らない。でも、私は育児をはじめてまだ1年9ヶ月なんですが、小さな赤ちゃんを育ててみると「この生き物をどうしろっての?」みたいな状況になるんですね。育児において、それまでの仕事の実績とか全部意味なくなっちゃった。誰かの手を借りたい、話を聞きたい、わらをもすがる思いで助けてほしい。そこではじめて家以外に居場所がほしいと思ってSNSで調べて、真美さんとだんろに行き着いて、いろんな人といろんな国の話ができた。私も娘もすごく救われています。
だんろのはじまりはルーシーさんとの出会いから
水嶋:だんろは2019年10月にはじめたということでしたが、きっかけは?
西田:地域になかったからつくった、という感じです。
水嶋:かっこいい!
西田:それこそルーシーさんとの出会いが大きくて。私は三男が8ヶ月、ルーシーさんは長男くんがお腹の中にいるとき、「友だちを探している外国人の方がいるから会ってみない?」と紹介されて出会いました。それまで私が知らなかった国からご主人とやってきて、今から子どもを生んで育てる。とても明るくてエネルギーに満ちてる方で、会いたいなと思うようになり、保育園が運営する私が通っていた子育てカフェに連れて行って、長男くんが生まれてからも毎日のように通っていました。日本人のママばかりなんですけど、みなさん優しくて。
西田:でも、今日も楽しかったと話す一方で、ルーシーさんが「私だけこれでいいのかな」「外国人のママたちに教えてあげたい」と言うようになって。だったら、私がそこで働けば窓口になって声を掛けられると思っていたんですけど、保育園も予算がないという現実的な問題もあって閉鎖されることになった。それでみんながこれからどうしようと迷っていたときに、「じゃあスタートすればいいんじゃない?」とはじめることになりました。「自分だけがよければいい訳じゃない」という、ルーシーさんの言葉がきっかけでしたね。
水嶋:本当にいいタッグを組めてますよね。地域のインフラや日本人のお母さんを動かすのは日本人の方がいいだろうし、外国人のお母さんは立場の近い外国人として暮らす人の方がいいし。そんな二人が同じ価値観を持っていることが、だんろの核なんだろうなと思いました。
西田:日本はサービスが充実しているけど、自分で探さないといけない。それがほしいときに届くか分からないですし、「用意するから自分でやってね」みたいなところがある。相手がどういう状況にあるか、想像する力が必要だなと思います。
水嶋:便利すぎると、世話を焼く必要がなくなるというか、そのことでかえって人と人との接点が失われる部分もあると思います。ちなみに、だんろの名前の由来は?
西田:「だんろのまえで」という、鈴木まもるさんという方が書かれた絵本があるんですね。雪の降る山にドアの付いた大きな木があって、たくさんの動物が暖炉の前で休んでいる。私が子どもたちと家で話す状況を重ねて、その絵本のような場をつくりたいというのが母親像としてあったんですが、このグループもみんなが疲れたり悩みがあるときに集まり癒される場になればいいなと思って名付けました。
水嶋:すごくいいですね。由来はもちろんですけど、外国人の方にとっても短くて覚えやすいし。
西田:ありがとうございます。
ルーシーさんと息子のエイトくん
いつでもそこにだんろがありつづけることが大切
水嶋:活動を続ける中で課題はありますか?
西田:まず自分自身の問題で、ボランティアって大変だなと思ってます。無計画な人なので、定期的に人を募って何かを主催するって簡単じゃないなと。あと、参加するママたちも子どもの成長とともに生活環境が変わっていくんですね。幼稚園に通うようになるとママも仕事を始めたりと、また違うステージに立つとほかのことに一生懸命走ると思うので。私も長男が来年は小学生になるので、親子サークルという名前でやっていけるのかと思うところです。なので、だんろだけで活動するのでなく、同じような目的で活動するNPOなどの団体や、保育園などの公共施設もあるので、そうしたところと連携して外国人の人たちの考え方を共有して要素を取り入れていってもらうというのが今年の課題です。
水嶋:本当、そうですよね。良い例は真似というか、倣っていけばいいと思います。でも、変化の早い育児をテーマとする活動だからこそほかの組織に比べても変化は多いだろうし、少数の人が核になるというより、参加者が積極的に当事者になってもらうのは大事だなと思いました。今後、だんろ自体がNPOや社団法人などの組織化する考えはないのですか?
西田:その時間があるのかもそうだし、そもそも求められるのかな?という不安はあります。
水林:子育てしながらだと難しいものがありますよね。お母さんも職場復帰すると、社会人の生活に、週末は家族の時間に、イベントにそもそも参加できるのかという。だから、メンバーは流動的になってもそのスタンスだけはあるといいなと思います。地域のお母さんたちもまた子どもが生まれるかもしれないし、だんろといういつでも腰掛けられる場所があればいい。
先入観のない子どもに親が学ぶことは多い
水林:お母さんと子どもの数だけやりたいことがあるんですよ。ある日、親子サークルに、小学校で音楽の先生をやってるお母さんがジャンベ(アフリカの打楽器)を持ってきていきなり叩き出して。その分からない何かに対して一斉に子どもたちが集まっていったんですね。子どもって大人と違い先入観がないから、そんな姿に大人が学べるところがあると思いました。
水林:前に真美さんとルーシーとピクニックに行ったとき、他の家族の集まりもいて、6歳くらいの子どもがずっとルーシーを見てて。髪型も肌の色も違う、でも話しかけられないじゃないですか。その子がお母さんに話しても「うーん」みたいな感じだった。私の娘も真美さんのお子さんも、ケンケン(ルーシーのお子さん)は生まれてすぐの友だちなので、肌の色の違いを疑問に思うときが来たら、直接聞けると思うんですね。でも、知らない方々だと、子どもたちの口にフタをさせて、その先の体験を失ってしまうことってあると思うんです。知ってもいいんだよ、考えてもいいんだよ、という雰囲気をつくっていくことが、だんろのように隣人として関わることにつながるんじゃないかなと。あの場面ですごく考えていました。
水嶋:日本は空気を読むというのがあるけど、それはお互いに共通認識がある上で、異端なことだと感じるからだと思います。でも、違う国で生まれ育ったらそんなのできないのは当たり前なので。通じないんだから、気になったら聞くしかないですよね。言葉を選ぶ必要はあるけど。それが、当たり前の世の中になればいい。でも言葉の壁はどうしてもあるものですが。
ジャンベで遊ぶ子どもたち
言葉の壁は遠慮につながってしまう
水林:だんろに来てるお母さんの国籍も、カナダ、アフリカ、フィリピンとさまざまなんですが。配偶者が日本人か日本語ペラペラか、または外国人同士かでだいぶ違うんです。フィリピン人のお母さんは旦那さんも英語を話すフィリピン人なので、日本語があまり分からない。すると、鶴川に4年以上暮らしている中で、図書館に入っていいのかも分からなかった。言語は通じる、通じないだけじゃなくて、サービスを享受していいのかという遠慮につながる。でも、友だちが知ってたら、「いっしょに行こうよ」と誘える。これは図書館に限ったことじゃなく、遊び場など子どもの施設の選択肢も狭まっちゃうんですよね。
水嶋:そうですね。利害関係じゃない友だちがいれば、いろいろ聞ける。これは男性的な言葉ですけど、友だちは社会におけるドアマン的な役割になれるんだろうなと。それが、日本語を覚えることにつながるし。日本人の方も少しは覚える姿勢も必要だとは思うんですけど。
水林:私はベトナムに暮らしていた頃に日本人社会にいなかったので分からないんですけど、(日本以外の)アジアの人は日本人よりも同胞意識が強いですよね。中国人は中国人で、ベトナム人はベトナム人で固まるし。行政の窓口に来るときも、日本語の話せる同胞の人を連れて来て仲間内だけでやっている。そこでコミュニティが分かれているのはかなり感じます。
水嶋:それはどうしてもありますよね。でも、日本語が話せる人は日本人と関わりがあったから話せるのだろうし、それぞれのコミュニティをつなぐことのできる人が、だんろに関わってくれるといいですよね。
西田:ルーシーさんがまさにそうして人を呼んでくれていますね。
水嶋:第二第三のルーシーさんじゃないですけど、それぞれの国のコミュニティにおけるルーシーさん的な役割を担うとか、そんな人がだんろで現れてくるといいですね。そういえば、だんろ内での言語のやりとりはどうしてるんですか?
西田:日本語を使うことが多いです。日本語教師の人との話で、日本語でコミュニケーションをとることが、外国人の人にとっても役に立つということになったというか。一方で日本人のママたちも分かりやすい日本語を使うことを意識するのがいいかなと。もちろん、英語の話せるママたちが間に入ることもあるんですけど。
水嶋:日本語を話せる話せないはまず置いといて、外国人のお母さんにおいても、日本語を使って交流しようという姿勢がまず大事ですよね。
水林:子どもの成長はすごく早いので、あっという間に日本語でお喋りができちゃうと思うんです。それに対してお母さんが置いていかれるのを防ぐためにも、日本語でのコミュニケーションは大事だなと思います。
水嶋:ですね。90年代頃に日本に来られたブラジル人やフィリピン人の家族でも、二世以降ではそうした問題を聞きますからね。
水林:子どもが親の、地域における通訳になっちゃうんですよね。
水嶋:必然的に子どもの時間が削られていきますもんね。子どもも話せないなら話せないで、学校の勉強についていけないと、受験も受けられないし、就職に響く。結果として未来の選択肢が狭まっていく。日本社会で暮らすなら日本語を必要とするのはやはりまだまだ避けられないから、コミュニケーションは日本語でというのはすごく納得です。
水林:今、英語学習が低年齢化してて、英語ができることがグローバル人材だと思われがちなんですけど、だんろは勉強する場所じゃないなと思ってて。人とのコミュニケーションの中で文化を受け入れて、自分で考えながら人と触れていく。必要な教科書なんてないですよね。
水嶋:そうですよね。いろんな文化があって、そこで最大公約数的に応用が利くツールのひとつは英語だよってだけで。ツールではなく、その背景にこそ本質があると思います。
地域交流会での座談会の様子
だんろは、大きな駅の、荷物が軽くなるベンチ。
水嶋:最後に、これを読んでいる方にメッセージがあればお願いします。
西田:本当にシンプルなんですけど、困っているときにいっしょに考えてあげられる友だちになりたい。孤独な育児をしなくてもいいように、だんろという存在があればいいなと思います。
水林:育児って世界共通。ブラジルもアフリカも、鶴川に住んでるお母さんも、「うちの子寝ないんだよね」とかで悩んでると思います。そんなときに「育児って大変だよね」と話すだけで持ってる荷物が軽くなる。だんろって、行き先がバラバラのみんなが交差する大きなターミナルにあるベンチ。そんな場所が鶴川にありますよと知ってもらいたい。だんろというベンチに腰掛けて、救われている真っ最中のお母さんとして、知ってもらえるとうれしいです。
水嶋:きっと、お子さんの将来にとっても大きな財産になりますね。大人になって「ちょっとアフリカの幼なじみに会ってくる!」みたいな。いつでもなんでもきっかけは人だと思います。
多文化共生は当たり前の暮らしの先に
私はふだん、子育てをしているお母さんに関わることが多くはないので、今回の話はすごくすごく得るものが多かったです。振り返ってみれば、組織化の話ひとつとっても、子育てをするお母さんお父さんの忙しさをきちんと想像できてないなと反省する場面もありました。
多文化共生という言葉は、あくまで社会の有り様を表しており、多文化共生という言葉に振り回されてしまうと、うっかり本質から遠ざかってしまうこともあるのかもしれません。以前から当たり前のように送る暮らしの中で、外国から来た友だちができるとか、そういったイベントをきっかけに生まれるものであり、そのひとつが子育てと言えるのでしょう。
そう考えると、今回はとくに「多文化共生を解く」というテーマにフィットする話でした。
文:水嶋 健
写真提供:西田さん(だんろ)
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