インスタとマンガで啓蒙!草の根多文化共生の集い・ベティーナさん&池乃さん

2022/08/19

インタビューコラム「多文化共生を解く」第7回

このインタビューコラム「多文化共生を解く」では、私(水嶋)が出会った、素敵だな、おもしろいな、と思う人にどんなことを考え、工夫をしているか、どんな変化が社会に必要と思うかなどお話を伺います。詳しい企画概要は第1回冒頭で。

過去のバックナンバーはこちら。

第1回:監理団体とITツール
第2回:人間関係と地域の居場所
第3回:子育てから広がる世界
第4回:NPOから見た13年の社会の変化
第5回:名古屋のベトナム人✕日本人で謎解き交流!
第6回:送り出し機関、組合、企業、実習生、4者がやることやれば問題は起こらない。

合同会社オトナキでは「COMIGRAM(コミグラム)」や「マンガで覚える日本の暮らし」など、マンガを使った多文化・多言語間、平たく言えば外国人と日本人のコミュニケーションツールを開発・提供しています(紹介記事はこちら)。そんな中、ある共通点を持つ方から問い合わせがありました。

>私は同志社大学のベティーナ先生という方と2人で、昨年から日本人と外国籍住民の多文化共生を目指し、マンガを使って皆で考えていこうという趣旨のサイトを立ち上げて細々活動しています。現在Facebookページとインスタグラムで「草の根多文化共生創作の集い」というアカウントで活動しています。
>先日、知り合いが「先にマンガを使って多文化共生の活動をしている人がいる」とのことで、コミグラムのサイトを教えてもらいました。

 

そんな「草の根多文化創作の集い」がこちら。

 

「マンガ」と「多文化共生」とは、うちがやっていることともかなり近い。

メッセージをお送りいただいた方は、漫画家の池乃さん。同志社大学でドイツ語を教えられているドイツ出身のベティーナさんとタッグを組んで、SNS上で「草の根多文化共生創作の集い」という名前で、多文化共生をテーマに日本で暮らす外国人の「あるある」や、多様性における日本と外国の考えの違いなどについて発信されているとのことでした。

オンラインでお話して、意気投合。今回は改めて、じっくりと活動の内容や経緯、マンガを使う理由、またお考えについてお聞かせいただきました。個人的にとっても興味深いのが、ドイツ出身という背景を持つベティーナさんの視点です。

地域の日本語教室や、異文化交流や生活支援も、その場所が日本であり、共通語の多くが日本語となることからも、どうしても日本人での運用が中心となりがちだと思います。そこで日本生活も長く文化をよく知るベティーナさんだからこそ感じる視点は含蓄に富み、非常に説得力があるものでした。「第二言語としてのドイツ語」などのドイツの事例も必読です。

ベティーナさん

池乃さん

「多文化共生」をテーマに4コママンガで発信

※発言者は敬称略

水嶋:多文化共生創作の集い、こちらの活動について教えてください!

池乃:InstagramとFacebookで、多文化共生にまつわる4コママンガを投稿しています。ベティーナさんが原作で、僕がマンガを描いて。これまでは発表して見てもらっているだけでしたが、最近では、日本で生まれ育ったという外国籍の方からのお問い合わせなどもありましたね。

ベティーナ:今年1月にはじめましたが、こうして自分の思いをコミュニケーションを通してマンガにしていくことは外国人籍の住民の立場から見てめちゃくちゃ楽しいです。池乃さんは意見が合わないときも聞いてくれ、何かしらの形にできる。それが何よりもうれしいですね。

水嶋:「何かしらの形にする」ということには、具体的にどういったものがありました?

ベティーナ:たとえば、「外国人がどれだけ頑張っても日本語は日本人並になれないが、ネイティブスピーカーと協力することで楽しいものになる」ということをマンガにしたかった。そこで最初、池乃さんは日本語の概念をモンスターとして描いたけど、私には違和感があることを伝えて、モンスターだけど可愛らしくなるという展開にしてもらったんです。

水嶋:なるほど、お互いに納得するまですり合わせていくということですね。

池乃:それについては意見が合わないという訳でもなくて、僕の解釈が思い込みになっているかもしれないんですよね。多文化共生とはこうですよと、僕から発信することはありえないので、ベティーナさんの意図と違うから指摘を受けて修正するということはしています。

水嶋:もしここでお互いに多文化共生まわりの解釈が違っていて、さらに平行線だったらすり合わせもできないですよね。原作と作画という役割分担をしているから成立する。チームを組む意味って、そこにありますよね。

ベティーナ:ただ、話については、中国人の友達からは「ピリ辛(毒っ気)がほしい」と言われてます(笑)。いろいろと模索中です。

マンガを使ったワークショップでの出会い

水嶋:どういうきっかけでお二人が組むことになったんですか?

池乃:去年の8月に、京都国際センター主催のフォーラムシアターというアドリブ劇を通じて、多文化共生について考えるイベントがあったんです。その中でマンガをつくるワークショップがあり、私は参加者側として、ベティーナさんは主催側として参加していたところ、マンガの描き手が足りず、マンガを描けるということで私も描き手に回りました。

ベティーナ:もともと私が以前、フォーラムシアターに参加したことがあったんですね。ファシリテーターを務める内山唯日さんは「Bridge Project」というプロジェクトを立ち上げ、演劇など、ノンフォーマル教育(正規の学校教育の枠外で行われる教育活動のこと)の様々な手法をつかうワークショップを提供している方なのですが、大学という「フォーマル」な教育現場で仕事している私は強い感銘を受けました。そこから、フォーラムシアターと漫画の基になるストーリー作成を組み合わせたワークショップの着想を得て、京都国際センターに提案し、その場に助っ人として参加したのが池乃さんだったんです。

京都国際センター主催のイベントとは別のフォーラムシアターの様子(内山さんにご提供いただきました)

水嶋:へーーー、フォーラムシアター、おもしろそうですね。

池乃:それで、参加した人たちでも納得する力作ができて、せっかくだからいろんな人に見てほしいと思ったけど、「個人情報もあるので一般公開はやめてこう」という話になった。そこでベティーナさんと「これを継続的にやれないか」という話になって、今年1月にスタートしました。

ベティーナ:そもそもなぜ私がこんなにマンガに熱くなっているかと言えば、私自身がマンガが好きで、たくさん読んできているんですよ。日本のマンガの分野は幅広くて、「クラスメイトは外国人」など多文化共生をテーマとした有名な作品もある。でも、これはバリバリの啓発マンガでマンガ本来が持つ面白さというものは少なめ。一方で、前述のフォーラムシアターを使ったイベントへの参加が画期的な出会いで、いろんな視点や話が飛び交うまさにコミュニケーションの場になっていたけど、イベントが終わったら消えてしまう。その場の話をどう伝えるか、それこそがマンガがいいと思ったんです。そんな話を国際センターに提案したら「やってみようか」という話になったんです。

水嶋:まさにマンガのような出会い方ですね。

池乃:これまで漫画家として雑誌に持ち込み出版社と話をしてきた訳ですが、ベティーナさんや日本語の先生たちといっしょにマンガをつくっていると、4コママンガの組み立て方などのセオリーに合っていなくて、逆に「こういう描き方もあるんだ」と勉強になりますね

水嶋:型にハマってないからこそできる発想というか。

池乃:はい。マンガ業界の人との仕事では分からないことに気づけたというか。多文化共生以外のところでも、「こういう話の落とし方(終わり方)もあるんだ」と勉強になります。

水嶋:どんな落とし方ですか?

池乃:4コママンガは起承転結で落とすじゃないですか。そのために、オチの内容が伝わるように絵で見せたり、誰かに突っ込ませたり、という構成になる。でもベティーナさんのつくる話は、はっきりとは説明しないで、「あとはみなさんで考えてください」といった見せ方が多いんですよね。そこで「全部を自分で説明してお膳立てしなくてもいいんだな」「多文化共生とはこういうものですよという押し付けではないんだな」と理解ができました。

ベティーナ:つくることは楽しいけど、実は自分でも自信はないんです。中国人の友達に見せたらゲラゲラと笑ってくれてそれが励みになっていたんですが、あとで気づいたのは、外国人同士だからこそウケていたんだなと。でも、みんなにウケるようなマンガはありえないものだと思うので、いろんな視点が伝わるようにやるしかないかなと思います。

水嶋:ある意味で、お二人のマンガは完成された作品ではないと言えるのかもしれません。最後のコマは受け手次第というか、そんな不完全さを含めて価値があるんだと思いました。

ベティーナ:いい表現をしてくれましたね(笑)。

水嶋:えっ?いえいえ(笑)。

池乃:マンガを通して交流の場をつくることが目的なので、みんなで考えてもらうのがいいなぁと思いますね。

日本語教室などの現場でもマンガを活用したい

水嶋:SNSへの投稿以外に活動されていることはありますか?

ベティーナ:池乃さんは地元の日本語教室にも参加していますね。

池乃:4コママンガを日本語教室の会報誌に載せたりもしています。SNSへの投稿も人から言われたことがきっかけで、その都度アドバイスを聞きながら展開していて、はじめてしばらくは、そんな感じでいいのかなと考えています。今後、教室で3コマ目までマンガを描いて、4コマ目をどんな内容にするか参加者同士で話し合うということも考えています。

ベティーナ:草の根多文化共生の集いは今、日本人のマジョリティ向けの啓発なので日本語で発信していますが、日本語教室の中での話し合いの種になるには、今後は多言語化もひとつの課題です。たとえばそのためにベトナム出身の方に協力してもらうとか、そんな風に輪を広げられたらいいと思います。

水嶋:SNSから飛び出してリアルなツールとして使うというのはいいですよね。SNSだとユーザー層はどうしても限られるし、世代も限られてしまう。その点で、リアルの場は数は限られるけど、生の反応もあるし、デジタルでなくアナログの存在感は重要だと思います。

外国人に日本語能力を求めない企業

ここで話は少し脇道に逸れて、ボランティアと外国人を雇用する企業の話に。

ベティーナ:多くの地域の日本語教室の話でいえば、ボランティアの人たちを中心に活動しており、そこに技能実習生など外国人を雇う会社を巻き込むことには限界があるんですよね。それは本来は行政が講座を開いて、プロの講師を呼んで、プラスアルファの交流などでボランティアの出番のはずです。日本語教育推進法ができたので、制度が少しずつ整備されていくと思いますが、まだまだボランティアだけが頑張っているという感じをどうしても抱いています

水嶋:外国人と日本人に人間関係ができ日本語能力が上がっていけば、生産性も上がっていく。と、私は考えているんですが、企業もコストをかけてまでそうした場を設けるところは一部だし、行政が行動するどうかは、課題がどこまで伝わっているかも大切だと思います。

ベティーナ:日本語能力が上がれば生産性が上がるということは事実だと思いますが、逆のことも言えます。「日本語ができない方が都合よく利用できる」という。実際にドイツでは、トルコから労働者を受け入れるときにドイツ語教育に力を入れていなかったんです。なぜなら、ストライキをしない、搾取しやすい人材がほしかったから。

池乃:積極的に日本語を学ばせている会社もあれば、「他の会社の賃金などの情報が伝わってしまう」と、逆に日本語教室などに参加することを嫌がる場合もありますよね。

ベティーナ:もちろん日本語ができた方が生産性も上がりプラスに働くはずです。ただ一方で、実習生など出稼ぎに来ている人の多くが、実家へ仕送りや貯金をするため地域にお金を落とさない。地域全体で見ればプラスにはなっていない。双方にもったいない話ですよね。

水嶋:そうですね。その地域のお店などのお客さんになることで、お金も使って、人間関係もできて、Win-Winということだと思うんですよね。確かに貯金する分からお金を多少なり使うのかもしれないけど、人間関係は居場所と言い換えてもよいので、そうなれば日本語を使う機会だって増えるし、友人も増えればさらに居場所も増えていって好循環だと思う。お客さん…消費者になるということは、とっても大事なことだと思います。

ベティーナ:地域の日本語教室という場も、独特なんですよ。あえて辛口で言えば、日本語を教える、日本語を使う、という時点で、日本人のボランティアと外国人には上下関係ができてしまう。この関係ができてしまうことを意識しないと、日本人が対等に話そうとしても外国人からすれば決してそうは思われないという場面も結構ある。だから、日本語からちょっと離れて、違う場で向き合える機会があれば、もっと違う関係性が生まれるんじゃないかなと期待しています。

水嶋:それは本当に共感します。いくらか話せても、その言語のネイティブかそうじゃないかで語彙だって変わるし、私自身もベトナムで外国人をやっていたのでよく分かります。ときどき、日本語に付き合わせていることで相手の困った表情を見て、申し訳なくなる。

ベティーナ:自分で外国語を学んではじめて、一生懸命日本語を勉強する外国人の立場が分かります。「やさしい日本語」は外国人に対して優しい施策としてあるけれど、一方で外国人が喋っている日本語は何と呼ぶのか?ネイティブスピーカーの使うものとはアクセントが違う日本語を理解しようとする態度も、「やさしい日本語」の中に入れないと結局はあまり意味がないなと思います。

水嶋:共感です。模範や基準を無意識に求めるのは、日本で続いた教育的価値観ですかね。

ベティーナ:ドイツにも「正しいドイツ語」という概念があって、「外国人が使っているドイツ語は劣ったものだ」という考え方があったんです。でも最近はそれも少し見直されていて、外国人が使うドイツ語を言い表す、「第二言語としてのドイツ語」という概念が用いられるようになりました。実際にそれが社会でどれだけ認められているかは別の問題ですが、発想としてはとてもよいことだと思います。日本も、文法的には間違えている日本語に対しての理解が、どれだけ広がっているんだろうなというのは疑問に思います。

水嶋:第二言語としてのドイツ語、今初めて知りましたが、本当に共感できる概念です。ブロークンイングリッシュという言葉もありますし、「やさしい日本語」ならぬ、ある程度はおおらかな、「ゆるい日本語」とかがあってもいいんじゃないかと思いますね。

ベティーナ:いい表現ですね(笑)。

池乃:やさしい日本語がやろうとしていることは素晴らしいと思いますけど、たとえば災害があったときに、「やさしい日本語で張り紙など書いてください」というよりも、近所に住む外国人の友人に、「大丈夫?」と声を掛けられる関係性ができているのが一番いいですよね。

水嶋:そうそうそう。

ベティーナ:そうそう。

水嶋:言葉なんて結局は意思疎通のツールで、伝えたい気持ちの10~20%とかのロスがあると思うんですよね。言葉に意識がいくあまり、関係性の構築が疎かになってしまって、言葉で外国人とコミュニケーションがとれました、満足です、と思ってしまうのは本末転倒だと思います。大事なのは、そのあと声を掛け合える関係性になれるかどうかではないかと。

いろんなルーツのある人が話し合える場にしたい

水嶋:最後に、草の根多文化共生創作の集いの今後を教えてください。

ベティーナ:この活動を広げていって、日本人も含めて、いろんなルーツのある人に参加してもらえるようにしたいと思っています。そうしていろんな人達が意見を言い合える、コミュニティのような、サロンのような場にしていきたいです。

池乃:マンガの多言語化と、4コマ目を考えてもらうというイベントをやっていきたいと考えています。興味があれば参加してください。

先進地域から学べる概念やツール、マンガもそのひとつ。

共通言語がない人同士のコミュニケーションもそうですし、何かを伝える上でマンガというツールはとても有用なものだと思います。先日、日本語教育関係者を対象にアンケートを行ったのですが、その中でも「マンガは日本語教育に有用だと思う」と7割以上の方が回答していました。

それでもなかなか、多文化共生…外国人支援や異文化理解などの文脈でマンガに特化して動かれている方とは出会わないので、まずベティーナさんと池乃さんとの出会いが私にとって感激的なものでした。実は最近も、全く別の地域で、その分野で取り組まれている方を知りました。この界隈、徐々に盛り上がっていくかもしれません。

また、「第二言語としてのドイツ語」のように、日本より明確に労働力として外国人を受け入れてきた国から学べるものがたくさんあるのだろうなと感じます。個人的に、日本は外国人の受け入れに関してまだ建前と本音が混在しているように思いますが、外国にルーツを持つ方々が活躍する中では無理があるんじゃないかなと。

日本はやっぱり権威が「号令」を掛けないとドラスティックに事は進まない国民性なんだろうと思っているので、そうなったときにすぐに使えるツールや概念を持っておきたいなと思いました。「第二言語として~」はまさしくそのひとつですね。そう考えると、マンガは日本のお家芸だし、率先して進めていっていいと思うんですよねぇ。って、私がCOMIGRAMをつくった背景もそうでした。

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インタビュー後日、COMIGRAMについてもマンガにしていただきました!私の顔の特徴をよく掴まれていらっしゃいます(笑)。

 

草の根多文化共生創作の集い(Instagram)

 

文:水嶋 健
写真提供:ベティーナさん、池乃さん(草の根多文化共生創作の集い)

 

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COMIGRAM(コミグラム)はマンガを使った多文化交流・多言語学習用ツールです

交流・学習に使えるツール紹介

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