移民政策学会の年次大会・社会連携セッションで発表
去る5月29日、「移民政策学会」という日本の外国人住民の受け入れといった移民などをテーマとする学会でお話しさせていただきました。
移民政策学会(JAMPS)/Japan Association for Migration Policy studies
移民政策学会の会員は研究者やNPOの方々ですが、毎年ある年次大会では「社会連携セッション」という、現場の実践者をスピーカーとして呼び会員と議論する場があります。その二人のスピーカーのうちの一人としてお招きいただきました。ちなみに、もう一人の方は「認定NPO法人 地球市民の会」国内事業担当の山路健造さんです。年齢が同じ、新聞記者をしていた(している)、共通の友人がいる、などなど共通点が多く、オンラインながらもうれしい出会いになりました。
さて、肝心の私の発表タイトルは「離島の技能実習生から考える多文化共生」。拠点としている沖永良部島での技能実習生にまつわる課題や、合同会社オトナキとしての取り組みについてお話をさせていただきました。
上記は使用した資料です、詳細についてはご覧ください。パワーポイントのアニメーションが機能しないので、読みづらいかもしれませんが大筋は伝わるかと。
技能実習生(や、特定技能労働者)に関わる課題は全国各地で聞き及びます。そこでデータを取った訳ではありませんが、私が現地で感じる肌感や、送り出し機関や監理団体の知人、また技能実習生から聞いた上での、要するに仮説なのですが、「離島だとこういう事情でより厳しい環境にあるのではないか」という話をしました。
その事情を3つのカテゴリーに分類するなら、「農業(or漁業)」と「田舎」と「離島」です。
「農業(or漁業)」だから稼ぎづらいという声
技能実習生の職種でも、農業や建設業より、製造業の人気が高いと言われます。理由は安定的だから。たとえば、農業は、雨天だと仕事が少なく残業代が付かず、また外作業が辛いという側面があります。建設業は、移動中は労働時間に数えられないので現場が遠いほど割を食うそうです。一方で製造業は、屋内作業が多く、天候にも左右されず、職場によっては空調設備も整い快適なため人気があるそうです。離島では、設備の輸送コストなどもあるため製造業は少なく、農業か漁業が多いと思われます。実際、沖永良部島の実習生の受入企業は9割近くが農業です。
職種に良いも悪いもありませんし、言うまでもなくすべてが社会にとって必要不可欠な産業ですが、稼ぐことを目的とした技能実習生にとっての視点で考えると、人気の偏りが出てきます。先日会ったとある技能実習生は、「(ここで稼ぐことを)諦めた」と話していました。時間が浮くならそれはそれで勉強に当てると割り切れば次のステップに期待もできる訳ですが、それを阻む課題について次で話します。
「田舎」だからインフラ利用に日本語能力が必要
日本語能力が低くても、都会であれば生活もそれほど苦労は感じないはずです。何故なら、言葉を交わさなくても使えるインフラばかりだから。電車やバスなどの移動手段、スーパーやコンビニなどの買い物、そもそも多言語対応も充実しています。一方で、田舎だと電車の本数が少ない、そもそも電車が存在しないことも多く、離島に至ってはバス一択が当たり前。コロナ禍以降益々、「人との温もりが感じられる」といった理由で、都会から地方への移住が増えていますが、日本語で対応できない人にとっては温もりどころか生活を送ることすらままならなくなります。
インフラが利用できないと、行動範囲が狭まり、必要な情報も得られず、生活の質に直結します。「日本語が話せるようになれば問題ない」という意見もあるかもしれませんが、現状でさまざまな日本人と触れ合う機会が限られる訳ですから、実践できない環境で日本語が話せるレベルまで学習意欲を保てというのは残酷だと私は思います。逆の立場で考えてみればどうですか?…というやつですよね。
「離島」だから島内に監理団体がなくフォローできない
離島はそうした「農業(or漁業)」と「田舎」という2つの事情ゆえの課題があるのですが、極めつけは、「そもそも監理団体がないこと」です。
技能実習生が被害を受ける暴力事件やハラスメントなどの要因のひとつに、監理団体が担うはずのフォローの不足が挙げられることはよくあります。トラブルを握りつぶすようなところは論外として、私が知る友人の中でも、技能実習生の未来を考えて誠意を持って取り組まれている方はたくさんいるのですが、それでもそもそも監理団体自体が、受入企業の近くになければどうしようもありません。
離島は海を隔てており、トラブル発生時に駆けつけるということがまず至難の業です。沖永良部島も当然、本土から実習生を呼んでいます。「だったら監理団体を島の中につくればいいじゃないか」と言っても、それはそれで島外への派遣が難しい(紹介先が島内の事業所に限られる)ので、運営上のリスクも低くありません。技能実習生の送り出し国が発展する一方で、日本の経済力が衰えていくことを考えれば、離島という環境で監理団体を立ち上げることはあまりに冒険だと私なら考えます(だからこそ離島内で健全にフォローできている監理団体があれば尊敬)。
離島の技能実習生に夢や希望はない?いや、ある。
こうした3つの事情で、離島で働く技能実習生は、本土に比べてもより厳しい(課題が多い)環境にある、というのが私が沖永良部島で2年暮らした上での考えです。
じゃあ、夢も希望もないのかというと、そうではなく、アドバンテージもあるんですよね。それが「人の温もり」です。とくに沖永良部島などの台風常襲地域で、かつ物資が限られるところは、昔から島民同士の結束こそが生きる術でした。それこそが温もりの正体だと私は思います。「あれ、さっきと言ってること真逆じゃない?」というと、言葉はそうですが、実は解決策は共通しています。
日本語能力が低くてインフラが使えないなら、人の温もりでカバーすればいいだけで、それはある意味で昔からやってきた強みでもある訳です。実際、私の周りでも技能実習生をはじめとした外国人島民を気にかけている人たちはたくさんいますが、みなさん一様に口を揃えて「どのように出会えばいいのか、話しかければいいのか分からない」と言います。そんな膨れ上がった風船のような温もりを針でツン!と突つくことが、今必要なアクションです。
最近、私にもようやく外国人島民の友人が増えはじめ、今月下旬には日本人・中国人・ベトナム人で集まって中国の餃子の作り方を教わる教室を開くことになりました。ふれあいの様子を一度でも形で見せれば、温もりを持っている人たちはすぐに集まると信じています。そうした友人関係が、インフラの利用の助けになります。
それに、彼らが帰国したら、地元を案内してもらえるじゃないですか。最高じゃないですか?それは。次は向こうで、お子さんやお孫さんの世話を焼いてもらいましょうよ。
餃子教室のつづきは、またおいおい報告したいと思います。
島内の和泊町の外国人人口比率は、いよいよ鹿児島県内2位になったそうです。日本の明るい未来になるのか?逃げていく島になるのか?これからが正念場です。
という訳で、移民政策学会で発表したという報告でした…スライド資料よりも具体的に書いちゃいましたね。
移民政策学会2022年度年次大会・社会連携セッションにお声がけいただいた多文化共生リソースセンター東海の土井さん、改めて誠に有難うございました。そんな土井さんのインタビュー記事は下記のリンクから読めます。13年間、外国人支援に関わるNPOを続けてきたからこそ話せる、含蓄の詰まった内容です。みなさま、ぜひお読みくださいませ。