【支援者インタビュー】食でつながる地球の真裏/ROOX代表・水島さん

2021/07/30

GINO-Tは、「Tシャツに印刷するイラストを100種類つくる」という目標を定め、2020年12月16日から2021年2月1日の一ヶ月半にかけてクラウドファンディングを実施。結果、107人の方々から目標金額の250%に迫る1,044,500円の有り難いご支援をいただきました。

ベトナム人実習生の失踪・過労死・自死などを解決する”Tシャツ”開発

そのリターン(支援者へのお返し)のひとつとして、紹介記事の執筆を設定。そちらを選ばれた計4名のご支援者の方について、ご紹介いたします。

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お名前は「水島大介」さん。今回のプロジェクトを知ったきっかけは、Twitterでツイートを見たことから。デイリーポータルZというサイトでライターをしていた私のことを知っていただき、それからTwitterでフォローしていたとのこと。漢字は違いますが、実は同じ「みずしま」姓。条件反射的に勝手な親近感を抱きつつ、インタビューをさせていただきました。

※これまでのインタビュー記事では私の名前を「水嶋」と表記していましたが、ここでは「ネルソン」表記で進めます。

ネルソン「まず、今回ご支援いただいた動機について伺ってよいですか?」

水島さん「困っている人に支援するという話はたくさんありますが、とくに良いと思ったのは、コミュニケーションツールを提供するということでした。そこに心を打たれましたね」

ネルソン「そこ、こだわっている部分なので、拾っていただけるとはうれしいです…!」

海外との取引で感じる日本の存在感の衰退

ネルソン「水島さんが代表取締役をされているROOX(ルークス)、ここではどのような事業をされているのですか?」

水島さん「スマートフォンに装着するカメラレンズや、アップルウォッチのバンドなどの関連商品を企画・製造・販売しています。それらが中心で、ほかに翻訳業務も行っています」

▲Rooxの製品例

ネルソン「翻訳業務と知ったとき、『あぁ、そこで海外とのやりとりがあって、GINO-Tに興味を持っていただいたのかな』と思ったんですが、関係はありますか?」

水島さん「それよりは、スマートフォンアクセサリの事業ですね。韓国、中国、台湾などのお取引先と連携して、日本向けの製品を作っており、海外との協業関係で成立しています」

ネルソン「お~国際色豊かな!」

水島さん「実はそうでもないんです。日本向け特有の商習慣や品質管理のやかましさを理解してくれる取引先が残っていくため偏りはあると思います。以前は韓国から仕入れていましたが、物価の上昇で日本との価格差が縮まり、今は主に中国からです。それも最初はウェルカムといった状況でしたが、わずかこの5年の間で国内市場も成長し、『日本企業は金払いも悪いし言うことも細かく面倒くさいから引き受けるな』と社員に指示している会社も多くなっているようです」

ネルソン「それはすごく危機感を覚える話ですね…」

水島さん「今までになかったジャンルが成長する過程では色々なヘンなものが生まれますよね。パソコンが生まれた時期の日本もそうでしたし、スマートフォン市場が急成長した時期の韓国もそうでした。それが、市場が成熟すると減っていく。なので、成長期にさしかかっている市場の躍動感を感じたい、それらを日本に持ち込みたい、と思っているのです。そうして今回の取材を、もっと広く、多くの方とつながるきっかけにしたいな、と願っています」

▲自社製品の『Sinji Pouch』シリーズも、ある意味では「スマホ時代のヘンなもの」だという。カードケースと一体化することでiPhoneをおサイフケータイ化できる。

インターネットでつながった日系人コミュニティ

ネルソン「水島さん自身は海外や外国人の方とつながりはあるんですか?」

水島さん「今から20年前に東京で働いていて、『思いついた国名+料理+新宿』で検索してヒットしたお店に行くということをやっていたんですね。なるべく知らない国の料理を、同僚を誘って、ウイグル、チュニジア、スリランカ、カンボジア、ウイーンなど…」

ネルソン「めちゃくちゃ楽しそう!それにしても、よくそれを調べようと思いましたね」

水島さん「そうですね、なんでだろう。ひとつは、高校時代に進学校に入ったけどすごく成績が悪くて。まず苦手だった世界史を克服しようとして、歴史の出来事がつながっていないと覚えられなかったので、『世界の歴史』という本全50巻を全部読んで要約したんです」

ネルソン「それってかなりすごくないですか…」

水島さん「ぜんぶ忘れましたけどね(笑)。ただそこで世界全体がつながって世界史が見えてくるという体験をして、気になる国がいっぱい出てきた。あとは大学時代に『MASTERキートン』というマンガが大好きで、そこで得た知識を通して外国の料理に興味を持ちました」

▲水島さんがお持ちの『MASTERキートン』全巻

ネルソン「なるほど、興味の源泉についてものすごく納得しました。ちなみに私の中で『おもしろい人は決まってマスターキートンが好き』というイメージです。読まなくちゃ。」

▲東京時代にめぐった外国の料理たち

水島さん「それから愛知に転勤し、見たことのない手作り感あふれる国旗を近所で見かけ、調べるとボリビア料理店だと分かった。そこで当時流行っていた日記サイトに『ボリビア料理って何料理?」と書いたら、知らない人から一言だけ『majadito』とコメントがあった」

ネルソン「簡潔なコメント(笑)」

▲こちらがそのmajadito(マハディート)

水島さん「愛知は自動車産業が盛んで、ブラジルやペルーからきた日系人の方が多く、一見すると分からないけど、注意深く見るとそれらの国の料理店も多いんです。お店に入ると私が日本人だと分かるようで、珍しそうに『ブラジル料理好きなの?』などと話しかけられます。それだけ、日系人コミュニティは日本人社会から分断されているのだと痛感しました」

ネルソン「私もGINO-Tを進める上で最近調べているのですが、実習生の前に中南米からの日系人が大きな流れとしてありますよね。コメントの主とはその後やりとりありました?」

水島さん「はい。ボリビアの日本人居住区の女の子で、チャット友達になり、インターネットを通してたくさんの日系人とつながりました。当時はネットがどんどん普及していく頃で日系人の二世三世の人たちは日本の情報に飢えていた。生まれは向こうでも、国籍は日本で、母語も日本語なんです。日本のテレビ番組をDVDに焼いて送ってもらって見ていたり」

なお、ここでいう「日本人居住区」は、ボリビアのサンフアン市のこと。戦後、もとは原生林だった場所を九州からの移民が開拓し、発展、2001年には市にまで昇格された街です。ボリビア国内にはほかにオキナワという、その名前の通り沖縄からの移民が築き上げた街があります。余談ですがそんな日本人日系人街を巡って本を書くことは私の夢のひとつです。

▲サンフアン地区の入り口

「郷には入っては郷に従え」は自分に向ける言葉

水島さん「『郷に入っては郷に従え』という言葉が嫌いです。『ローマではローマ人のようにせよ』というものもあるので世界共通の真理なのでしょうが、あくまでも自分自身に向けるべきものであり、他人に向けたらただの攻撃だと思うのです。土地のルールを知っておくことは大事ですが、コミュニティに迎え入れない、非難の眼差しを向けるだけで指摘はしない。そんなことでは郷に従うことも難しくなってしまいます。日本のアイデンティティは血だけではないはずです。そこで今回のTシャツは、着るだけで『コミュニケーションを取る気あるよ』という意思があるということだし、とても素晴らしい取り組みだと思います」

▲中国の取引先のみなさんと

最後に、水島さんが語った過去の話がとても印象的だったのでそちらを紹介いたします。

水島さん「10年前、上司が『近所にブラジルの子たちがお店を開く準備をしているよ』と言ったんです。しかし、向こうは夜中でも賑やかに音楽を流すお国柄。静かな住宅街でそれはやばいのではと、とっさに『えらいことになりますから町内会で話し合った方がいい』と進言してしまい、数週間が経ち『お店のオープンは取りやめになった』と聞きました。文化の違いを理解しているつもりだった自分が、その知識を彼らの排除に使ってしまったことにずっとモヤモヤしています。あのときどうするべきだったか、今も答えが見つかりません」

私自身、こういった活動をしている立場から、「多少は理解しているつもり」ですが、それゆえ口を出したいときがあります。水島さんの話でいえば、予想できる生活の衝突を未然に防ぐことがよいのか。あるいは、分かっておきながらもあえて何もしないことがよいのか。

少なくとも今はその「溝埋め」をする段階、だからこそこのGINO-Tをつくったのですが、目の前にすぐ衝突が迫っているときに、間に立てる人がどう振る舞うべきか。そうした知識や経験を持つ方は、これからそのような選択を迫られる機会が増えていくように思います。

最後に「記事を読む方に伝えたいことは?」と水島さんに尋ねるとこう答えてくれました。

「日本がこれからどうしていくのか、みんなで考えないといけない時期にあると思います。その判断にはやはり(文化背景の異なる人同士の)お互いのリスペクトが大前提として必要であり、こういう活動(GINO-T)を知ることがそのきっかけになることを祈っています」

ありがとうございます、とても勉強と励みになる取材でした。

 

ROOXホームページ:https://www.roox.jp/

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