インタビューコラム「多文化共生を解く」第2回
多文化共生を、聞こえの良いお題目から、具体的な実現できる目標に変えていく。
このインタビューコラム「多文化共生を解く」では、私、水嶋が出会った、素敵だな、おもしろいな、と思う人に、どんなことを考え、どんな工夫をしているか、どんな変化が社会に必要と思うか、お話を伺います。詳しい企画概要は第1回冒頭で。
シリーズのURLはこちら。
第1回:監理団体とITツール
第3回:子育てから広がる世界
第4回:NPOから見た13年の社会の変化
第2回のゲストは、大阪で介護士として働くベトナム人青年のAnh(アイン)さん。23歳。彼は以前、私が暮らす沖永良部島(おきのえらぶじま)の技能実習生でした。当時島内に100人前後いた実習生の中で日本語が飛び抜けて上手で、地域の日本人と実習生の交流会で、壇上に上がり自身の夢をスピーチする姿が印象的でした。
その後、在留資格「特定技能(※)」の介護分野の試験にパス。今、どんな仕事・生活をしているのか。また、大阪と離島の暮らしを比べたときに何を思うのか。私の地元でもある大阪で働くと知ったときから、再会する日を待ちわびていました。
※2019年に開始された日本の在留資格。深刻な労働力不足に対応するために設置されたものであり一定の技能及び日本語能力基準を満たした者が特定技能としての在留を許可される。(Wikipediaより)
こんな話に広がりました。
・現在Anhさんは介護施設で唯一の外国人として働いている
・将来は介護福祉士になって日本でまだまだ働いて稼ぎたい
・沖永良部島は静かで勉強に向いていて好きだった
・実習生の友だちとは家でよく遊んだ
・うるさくなるので実習生同士で島の飲食店には行かなかった
・カトリックとバレーボールつながりで日本人との関わりがあった
・実習生制度はなくして特定技能に一本化してほしいと思っている
・9月に沖永良部島に遊びに行く
実習当時のAnhさん
日本でもっと働いて家族にお金を送りたい
※発言者は敬称略
水嶋:自己紹介をお願いします。
Anh:ベトナム人のAnhです。ハノイから来ました。今日はえーと、1年間ぶりですかな。水嶋さんに会えてほんまにうれしいです。
水嶋:サラッと大阪弁使ってきたね(笑)。
Anh:あ~!すみません!(笑)
水嶋:いやいや(笑)、ほかに知ってる大阪弁は何?
Anh:なんでやねん!えらいこっちゃ!
水嶋:あはは(笑)!大阪に来て、1年2ヶ月だっけ?今の仕事は何ですか?
Anh:介護ですね。毎日、施設の利用者様を起こして、ご飯を配膳して、口腔ケアとか、レクリエーションとか、話したりして。朝昼夜それの繰り返しです。
水嶋:いっしょに働いてる中でベトナム人の人もいるの?
Anh:いません、外国人の方もいません。
水嶋:一人だけ外国人!?すごいね、日本人と変わらずいっしょに働いているんだ。
Anh:よく(利用者と)喋るのでみんなからうるさいと言われます(笑)。
水嶋:利用者さんもたくさん喋ってほしいもんね。今の仕事はどうですか?
Anh:最初は大変でしたけど、もう慣れました。
水嶋:どういうことが大変だった?
Anh:認知症の方に言葉が通じなくて、どう声を掛けたらいいか分からないのが一番困ったんですね。いろんな人から教えてもらって、今は利用者様が理解できる簡単な言葉だけ使っています。いっぱい喋っても分からないので。
水嶋:日本語能力えげつないくらい伸びそう…いや、実際、伸びてるね。
Anh:ありがとうございます。
水嶋:今は介護の仕事で、Anh君は将来何を目指してますか?
Anh:介護福祉士の資格を取りたいですね。そうして日本で結婚したら…結婚するのはもちろんベトナム人と!それで、ずっと日本で暮らしたいです。
水嶋:日本でずっと暮らしたい理由は何?
Anh:お金を稼ぎやすいからです。ベトナムでも仕事はあるけど、給料は日本の方が高いじゃないですか。
水嶋:なるほど。でも、日本で稼げても、お金も使うじゃないですか。それはやっぱり、ベトナムの家族にお金を送りたいから?
Anh:そうですね、それが目的ですよ。
水嶋:うんうん。じゃあ、ベトナムの家族が豊かになって、もう幸せだってなったら、ベトナムに帰るかもしれない?
Anh:はい、いつかはベトナムに帰るですね。でも仕事するときは日本で。どれくらい時間がかかるか分からないけど、10年間か…。
実習生時代、生産したきくらげを販売するAnhさん(左)と職場の先輩(右)。
騒ぐから、実習生仲間とは宅飲み。
水嶋:実習生だったときは、どこでどんな仕事をしてた?
Anh:沖永良部島できくらげを作ってました。
水嶋:そもそもどうして技能実習生として日本に来たいと思ったの?
Anh:お金を稼ぐために。留学生として行ってもいいけど、それなら勉強しないといけない。専門学校とかも行かないと。
水嶋:それだと逆にお金かかっちゃうもんね。まぁ、Anh君は多くの留学生より勉強熱心だと思うけど。ちなみにベトナムでは何してたの?
Anh:自由な仕事…バラバラです。建設とか、服を包装するとか。
水嶋:へーー。実習生応募のきっかけは?
Anh:いとこが日本で実習生として働いていたので、「もし仕事するなら日本においでね、お金稼ぎやすいよ」と言われました。たぶん、そんな感じだったかな。
水嶋:沖永良部島はどうだった?日本の中でも田舎だから、日本のイメージと違っていそうで。どう思ってるのか聞きたかった。
Anh:まぁ、まぁまぁ、そうですね。静かでしたけど。交通は不便ですが、僕は日本のどこでも普通(同じ)です。
水嶋:たくましいな。島では休みの日は何してた?
Anh:何してたかな…。日本語を勉強してたかな、あとは友だちと海に行ったり、ご飯を友だちといっしょに食べたり。
水嶋:友だちはほかのベトナム人実習生のことだよね。島内の飲食店にも行った?
Anh:日本人の同僚とは行きましたけど、友だちとは家でつくって食べました。
水嶋:お店に行ったりはしなかったの?
Anh:うーーん。お店に行っても楽しいんですけど、みんなでつくった方が…。
水嶋:お金もかからない。
Anh:それだけじゃなくて、なんていうか、自分でやるのが自由じゃないかな。たとえば店に行くと、みんな喋るのでうるさいじゃないですか。なので自分たちで。
水嶋:迷惑がかかるから家の中で過ごしてたってこと?
Anh:それも考えますね。
水嶋:なるほど、そういうことか。そういう遠慮があったということは大事だな。
実習期間中に二十歳を迎えたため、職場の先輩の計らいで島内の成人式にも参加。
島は静かで、勉強しやすく、好きだった。交流は今も。
水嶋:さっき言ってた「日本のどこでも普通(同じ)」というのに驚いたよ。どちらが良い悪いじゃなくて、私は、地元の大阪と、沖永良部島はやっぱり違うと感じる。それはAnh君以外の実習生も同じ考えだったの?
Anh:まー、人によって考えはちゃうと思いますね。僕、静かなのが好きなんですよ。それで大阪でも、あまり賑やかではないから堺市を選びました。
水嶋:そこは閑静って言い換えておこう(笑)。でも梅田は賑やかすぎるもんね。
Anh:そうですね!ほんまに。都会は都会で好きだけど、静かなところにふだんはいたいです。
水嶋:じゃあ、Anh君にとって沖永良部島は落ち着ける場所だったんだ?
Anh:好きだったんですね。物価も安いし。
水嶋:そうか!?
Anh:食べ物の料金が安いんですよ。こっちはきゅうりが200円で、沖永良部島は100円で。ただ、お肉はちょっと高い…。
水嶋:地産地消コーナーとかはそうかぁ。実習生の人たちは、そのへんの日本人よりも市場相場を把握してそうだね(笑)。島での生活について、ほかの実習生の友だちと話すこともあった?
Anh:いろいろありましたよ。あんまり遊べるところがないじゃないですか。若者ばかりだし、ほんま言ったらまだ遊びたい。なので寂しいなと言われた。水嶋さんもそうじゃないですか?
水嶋:うーん、私はみんなほど若くもないし、そもそもAnh君と同じく繁華街が好きでもないからな(笑)。でも、島にいる理由のひとつは、おもしろい人がいるからだよ。発信していれば広まりやすく、人に出会いやすい。
Anh:僕もそう思う。
水嶋:お、具体的には?
Anh:優しいと思う。どこも厳しい人も優しい人もいると思うけど、島の人の方が優しい。
水嶋:いっしょに働いている人が優しかった?
Anh:いい人ですよ。ほんまに。めっちゃくちゃ優しい。たまたま今でも電話するんですよ。
水嶋:たまに?
Anh:たまにです(笑)。「お元気ですか?」「お元気ですよ!」って。「みなさんによろしくお願いします!」って。
水嶋:いい関係だね。島で大変だったことは何?
Anh:やはり日本語ですね。たとえば、仕事するときに言葉が通じないとか。発音とか、方言とか。いろいろ勉強しました。寂しかったんですけど、ほんまにいろいろ勉強なりました。今思い出してきました、ほんまにいろいろ。
地域住民と交流会での一幕
教会のミサとバレーが地域とのつながりだった
水嶋:今ね、実習生の人たちと、日本人の人たち、交流がほぼない。
Anh:あぁ、そうですね。
水嶋:会社の人とは話をしてるかもしれないけど、それ以外の日本人でも、島にベトナム人の人が多いことをみんな知ってはいる。だから話をしたいと思ってる日本人も私の周りにたくさんいるんですよ。実習生の友だちで、会社以外の日本人と話してみたいとか、遊んでみたいとか、いた?
Anh:はい、いましたね。
水嶋:いたけど、機会がなかった?
Anh:ですけど、僕はバレーボールに参加もしたんですよ。いろんな人と試合もして。それだけでもよかったなと思います。
水嶋:なるほど。そういえば、Anh君はキリスト教徒だったよね。
Anh:カトリックですね。
水嶋:カトリック。だから教会にも行ってたでしょ、そこで仲良くなれたのもあるのかな?
Anh:そうですね。長井さんかな、あと森さん。
水嶋:私、まだ移住する前、島の教会でベトナム語の張り紙を見つけて驚いてね。今思えばあれはAnh君が通っていたからなんだろうな。
Anh:ミサのスケジュールかな。
水嶋:バレーボールもそうだし、カトリックもそうだし、Anh君は会社以外の人と話すチャンスがたくさんあったんだろうなと思う。
Anh:そうですね。実習生は日本人と話すのが難しいと思われますね。
水嶋:日本人とのつながりがたくさんあって、喋る機会が多かった。Anh君とはじめて話したとき、正直に言うと「こんなに日本語が話せる実習生もいるんだ」と驚いたんだよ。
Anh:ほかに何人もいると思いますよ!僕だけじゃなくて。
水嶋:そうなんだ。今はコロナもあって安易には動けないけど、島でベトナム人の人たちと日本人の人たちに交流してもらうことを考えているんだよ。たとえばベトナムの将棋とか、ダーカウとか、言葉を使わないレクリエーションで。
Anh:それか、サッカーとか!みんな大好きです。
水嶋:そうね。ベトナムでよく遊ばれるものなら、バドミントンでもいいし、それだったら言葉なくてもコミュニケーションできるね。それで仲良くなれば、日本語勉強しようかなとか、ベトナム語勉強しようかなとか、お互いに思える。みんながそうじゃないと思うけど。
Anh:多いと思いますよ!
水嶋:そっか、それはよかった。でも、みんな、お金を稼ぎに来てる。
Anh:それはもちろん。
水嶋:それでさっき、日本語を勉強しない人もいるという話があったので、日本人と仲良くなるつもりがない人もいるのかなと思っていたの。
Anh:それはないと思います。
水嶋:仲良くなる機会があるなら、仲良くなりたいと思ってる?
Anh:思いますね。日本人と仲良くなれば、仕事するときに日本人の気持ちも分かるから。
水嶋:動機が多いのはいいことだね。ちなみにAnh君、お金もシッカリ貯められた?
Anh:はい、シッカリ。
水嶋:素晴らしい。
Anh:ほんまにみんな感謝しています。
交流会での一幕・その2
仕事を選べる自由を。特定技能に一本化してほしい。
水嶋:ここで話は変わるんだけどさ。今日本にたくさんのベトナム人の人が働いていて、大変な思いをしている人もいる、ひどいところでは暴力とか。なんとかしたいと思うんだけど、Anh君はどうすればいいと思う?難しい質問だと思うけど。
Anh:難しいとは思わないんですけど…。いっぱいベトナム人の支援協会みたいなものがあれば、助かると思いますね。
水嶋:具体的にはどんな支援があるといい?
Anh:法律を守らない会社もあるし、たとえば法律を、いろいろな会社に分かるようにすればいいと思う。技能実習制度にいろいろな問題があると思う。政府が制度を、破棄して、代わりに特定技能になればいいなと思う。
水嶋:Anh君以外の周りのベトナム人の人も、同じ意見は多いのかな?
Anh:そうですね、多いと思う。
水嶋:理由は、仕事も選べるし、給料の支払いも保証されるから…?
Anh:そうですね。相談することもできるし、それはいいと思います。暴力も多いじゃないですか。技能実習生だったら、給料に制限がありますよ。もし会社が法律を守ってくれたら、それはいいと思いますけど、そんなに守ってくれない会社も多いから、本人が大変だなと思います。
水嶋:さっき私がベトナム人(実習生)と日本人に交流してほしいと言ったのは、相談相手は多い方がよいと思っているからなんだよね。相談というほどでなくても、地域にどんなお店や、どんなスポットがあるのかも分かる。それはどう思う?
Anh:いいと思いますよ。どうやってするか、それが問題です。
水嶋:そうだね。それがさっき言ったサッカーやバドミントンだね。
Anh:いいと思いますよ、応援してあげます。
水嶋:うん、応援してあげて(笑)。でも前に、連絡を知ってる数人の実習生の人たちにイベントがあるよと、メッセンジャーで声を掛けてみたんだけど、反応がなくてね。
Anh:ちょっと恥ずかしいんですよ。
水嶋:そうかな…。メッセージに「いいね」が少しポンポンと付くだけで、こちらは「来て!来て!」と思うんだけど、車がないから来るのも大変だし、メッセンジャーだと説明も大変だし、車で迎えに行って乗せて行こう!と、そこまでしないといけないなと思ってます。ま、コロナが落ち着けば。
Anh:ありがとうございます。ほんまに助かります。ほんまに。すごいなと思いますよ。
水嶋:いやいや…私もベトナムではたくさんの人に助けてもらったので…でも、ありがとうね。
仕事ができれば、逃げなくてもいい。
Anh:最近は犯罪するベトナム人も増えてて、いろいろ問題になってますね。
水嶋:少しでも犯罪に走らないような状態にしたいね。
Anh:それは難しいですね。犯罪する人はどうしてもいるんですよ、ベトナムにいるときに思わなかったですか?
水嶋:まぁまぁ…。
Anh:犯罪する前に、深く考えないんですよ。前の利益を考えて犯罪してしまう人が多いんですね。やる前にちょっと考えればいいけど、それをしないから。それがほんまに流行ってるんですよ、普通というか。
水嶋:そうか。難しいなーと思うのが、稼ぎに来たけど、仕事をさせてもらえないから、職場から逃げてほかのところに行く。これも犯罪になっちゃう。
Anh:そうですね、今多いですね。
水嶋:それはAnh君はどう思う?
Anh:その会社でいっぱい残業があったら逃げようと思わないと思いますね。仕事がしたいから、お金をもっと稼ぎたいから、それも問題だと思います。
水嶋:だね。仕事しに来たんだから。とはいえ仕事は勝手に増えるものではない。そう考えると、ほんとに仕事が選べたらいいよね。逃げることは犯罪になっちゃうんだけど、国を飛び出してまで稼ぎに来た人たちに対して、「稼げなくても離れるな」と法律で縛っている訳だから。
Anh:そうですね。
水嶋:Anh君の話、よく分かりました。ありがとうございます。
また沖永良部島に行きたい
Anh:でも僕は、若いうちにいろんなことを体験したいなと思います。どこでも全然大丈夫です。
水嶋:素晴らしい。Anh君、旅行してる?
Anh:してますよ。9月頃には沖永良部島に行きます。
水嶋:ほんと!?運転手するよ!
Anh:ありがとうございます!!友だちといとこも行くんですよ。
水嶋:へー!いとこは今も日本なんだ、どこにいるの?
Anh:静岡にいるんですよ。女の子です、恋人いないです。
水嶋:そ、そうかい。いくつ?
Anh:二十歳です。
水嶋:私はおじさんなので…(笑)。
Anh:そんな思わないですよ(笑)。
水嶋:とにかく日程決まったら教えてね。元実習生がまた遊びに戻るってあまり聞かないから、島の人はうれしいと思うよ。Anh君にとって戻ってきたい場所というのが、うれしい。良い人間関係を築けてこれたということなんだろうね。今日は本当に会えてよかったよ。
Anh:こちらこそほんまにありがとうございます。
人間関係の数だけ居場所ができる
以上です。いろんな話が飛び出しましたが、何より「沖永良部島に遊びに行く」と言ってくれたことがうれしかったです。島では、Anh君を取り巻く環境(人々)がよかったということもある一方で、また「静かな場所が好き」というAnh君の姿勢もよかった。沖永良部島とAnh君の相性がよかったのでしょう。
以前、Anh君の先輩の日本人の方と話したときに、「島に来て早々に『教会に連れて行ってほしい』と頼まれた」と教えてもらったことがありました。その結果、会社の外側の、ある意味では利害関係が一切絡まない日本人ともつながることができ、そこで地域の一員としての居場所が生まれた。
突き詰めると、技能実習生に限らなければ、外国人の話に限らない、人がコミュニティに入っていく上での関係づくりにおけるヒントが、彼の話に散りばめられているように思いました。
最後に一点だけ付け加えておきます。
以前、実習生まわりの現場に携わる方から、「技能実習制度は問題もあるが、ベトナムなど新興国の若者が夢を掴むチャンスでもある」といった旨の話を聞いたことがありました。今回の話では制度に否定的な話も出ていますが、その入口がなければAnhさんは特定技能の資格をそもそも得ていないと考えると、すべてがネガティブな面ばかりではないと水嶋は考えています。とだけ。
それと職場の選択の自由度のなさは別の話ですが。
なんでも良い面と悪い面がありますよね。
Anh君(右)と私(左)
文・写真:水嶋 健
写真提供(一部):Anhさん
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