コラム・多文化共生を解く第1回:監理団体とITツール

2022/05/03

インタビューコラム「多文化共生を解く」第1回

全国各地で住民のルーツが多様化し、文化や言語の違いから生活インフラなどの見直しが議論されています。そこでよく持ち出される言葉が「多文化共生」。出自は総務省の資料で、「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」という説明。これが理想的な社会としばしば語られます。

しかしこの言葉が広まる一方で、具体的な実現方法についてはいまだ手探り状態。急速な社会変化の中で、「多文化共生と言われても、どうしたらいいか分からない」という地域も少なくないのではないでしょうか。

そこでこの連載コラムでは、私、水嶋が出会ったプレイヤーの方々に、どんなことを考え、どんな工夫をしているか、どんな変化が社会に必要と思うか、お話を伺い、発信し、ここで共有していきます。多文化に接するみなさんそれぞれのヒントになれば幸いです。

シリーズのURLはこちら。

第2回:人間関係と地域の居場所
第3回:子育てから広がる世界
第4回:NPOから見た13年の社会の変化

多文化共生を解く。第1回のゲストは岡山の監理団体・日本企業振興協同組合のマネージャー、三好貴士(たかひと)さんです。

こんな話に広がりました。

・監理団体や実習制度に限らず、外国在住者との仕事はITツールが必須。
・実習生の雇用とコミュニケーショントラブルの背景にITリテラシーがある
・監理団体はなんでも屋ではない、受入企業自身での対応を意識してもらう。
・キャリアビジョンなど実習生候補者が日本での実習をどう捉えているかは大切。

三好さん

コロナ禍待機の実習生候補とチャットでやりとり

※発言者は敬称略

水嶋:自己紹介からお願いします。

三好:日本企業振興協同組合という、技能実習生の方を取り扱う監理団体で責任者をしている三好です。ベトナムや中国などの東南アジア圏の方が日本で働く監理サポートをしています。

水嶋:三好さんと私は共通の友人に小野さんという方がいて、彼とは8年前にベトナムで出会ったのですが、お二人はかなり地元に根付いたつながりでしたよね?

三好:はい。母校が同じで、奥さん同士が知人ということで知り合いました。それと小野さんの弟さんが中学の同級生で、ふしぎな縁ですね。しかも、会ったのは去年の今頃、今歩いているこの後楽園です(笑)。

このあたりを歩きながら話してました(実際は夜でした)。

水嶋:今日のテーマは三好さんにとってビジネス的な話でもあるけど、つながりは家庭的ですね(笑)。さて、そんな小野さんからの紹介で三好さんと会ったのが去年の11月頃ですが、当時たくさんお話する中で、技能実習生の方のことをとても考えられている方だなぁと感心してたんですね。そこで今日は改めて、ふだんの活動や考えを具体的に聞きたいと思ったんです。

三好:分かりました。実習生を指導したり生活のケアをするのは基本的に企業さんなのですが、技能実習法という特殊な法律があり、その通りに運用するため専門的な見地から関わったり、言語的なサポートなどをしています。コロナ禍で制限されてきた入国がようやく解禁になり、我々も実習生として来る方が100人くらい待機していました。毎月リモートで近況を確認したりと関係を築いてきて、ようやく4月に迎え入れられることになります。

水嶋:ようやくですか!なるほど。でも、事業を進める中で、送り出し機関で教育を受けた実習生が来て、監理団体として研修を行い、受入企業に紹介して、サポートしていく、この一連の流れがスムーズに回れば苦労も少ないでしょうが、たくさんの課題があると思うんですね。

三好:そうですね…。多文化共生というテーマでいえば、文化や考え方の違いもそうですし、また制度と現実に大きなギャップがあり、この乖離がいろんな問題を生んでいると思います。

水嶋:具体的には?

三好:技能実習制度のそもそもの趣旨は、発展途上国…この言葉もナンセンスかなと思うんですが、おもにアジア圏の国から来た方に日本で技術を指導して、母国の発展に寄与してもらうという人材育成の制度です。それ自体は素晴らしいのですが、現実に実習生を受け入れる企業の大半は零細企業で、マンパワーがほしくて雇い入れている。

岡山県にはベトナム政府から寄贈された日本唯一のホーチミン氏の銅像がある(美作市の作東文化芸術センターにて)。手前にいる邪魔な人は私です、すみません。

実習生とはチャットで直接相談を受ける

水嶋:そこで実習生の生活サポートを監理団体ができたらいいと思うのですが、そうした企業が多いとどうしても、問題が起こっても情報が上がってこないこともあるのかなと思います。

三好:企業が文化の違いなどを理解して実習生と関わっていくのが一番で、我々がしないといけないのは、実習生の指導よりも、企業への教育ですね。ただ、実際、どうしても情報が上がってこないところはあるので、僕らとしては、チャットですね。実習生とは入国前からチャットで直接つながっていて、本人から相談を受けてアドバイスできるようにしています。

水嶋:全員とチャット!それ、技能実習法上の義務じゃないですよね?

三好:義務じゃないです。

水嶋:それは監理団体として事業をはじめたときからですか?

三好:コロナ禍になってからというのが大きいですね。以前からSNSを使って、結果的にはやりとりはしていたんですが、ここ2年で組織として制度化しました。

水嶋:ベトナム人職員の方が対応しているんですか?

三好:日本人の営業マンも、実習生とつながっていて、直接やりとりしています。

水嶋:英語?日本語?

三好:基本は日本語で。

水嶋:へーー。正直、そちらの実習生の方々に、日本語でいろんな困りごとを相談できる語学力があるというのに驚きました。それができない状態で来る人も少なくないじゃないですか。

三好:そうですね。

水嶋:僕ね、前から、企業のITリテラシーと実習生へのケアは関係あると思ってて。日本人を雇えないから実習生を雇っているという話も聞くんですね。でも今は、地方だとより、求人するにもITリテラシーって必要じゃないですか。仕事の環境も大切だけど、それでも求人サイトを使って良い見せ方ができたら呼べるかもしれない。それができないから実習生を雇う。でも、彼らとの意思疎通にも、翻訳アプリだったりとかでITリテラシーがまた必要で。もちろんすべての現場がそうだとは思わないですが、実習生を雇い入れることと、ケアが行き届かないことの背景には、程度の差こそあれ、ITリテラシーは関係すると思うんです。そこで三好さんの話を聞いて、「監理団体も同じか!」と思った。たとえばメールではなくFAXを使う企業だと、別にFAXを悪く言いたい訳じゃないんですけど、チャットでケアするなんて選択肢はまず出て来ないと思います。えっと、ちょっと喋りすぎました(笑)。

三好:そうかもしれないですね。監理団体に限らず、外国在住の方とつながる仕事についてはチャットなどのツールはもう必須だと思います。

水嶋:会話にしろ、ネットでサッと画像を検索して見せたりもできますもんね。それもできなかったら、そりゃあ意思疎通も難しいよ、トラブル起こるよっていう。

三好:実際、業務で実習生の在留カードの更新をするんですけど、「新しい写真を送ってください」とひらがなで送れば、セルフィーでいい感じに加工したものを送ってくれます(笑)。

水嶋:あはは!盛りすぎて逆に使えなさそう(笑)。

岡山市内にある4階建てのビルにはベトナム食品・雑貨店、ベトナム料理店が入っており、近年のベトナム人住民の急増が窺い知れる。撮影した日はあいにく休店。

監理団体は何でも屋じゃない

水嶋:ほかにも課題はありますか?

三好:監理団体は何でも屋じゃない、ということですね。「監理費を払ってるからなんでも世話をしてくれるだろう」というスタンスの企業さんも多いので、線を引いて、役割分担を明確にして関わっていくことはかなり意識しています。

水嶋:確かに、確かに。なんでも押し付けて良いと考えると、自分たちで対応しよう、考えよう、という意識にならず、状況は悪化していきますよね。

三好:はい、それがトラブルにつながっていくので。そこが理解できる企業さんじゃないと外国人の方を雇い入れちゃダメだと思うし、岡山県でも大きなトラブルが起きているんですけど、そういうことが少しでもなくなるようにしないといけないというのは、使命感じゃないですが、意識しながらやっています。

水嶋:こうしたらもっと問題は減るのに、と思うことはありますか?

三好:やっぱり、上下関係ではなく、それぞれの立場をお互いが理解して、制度を活用することですね。技能実習制度に限らず、外国人の方が日本で生活するにあたって、お互いのことを理解しあえる関係が築ければ悩んでも踏みとどまって相談できたりすると思います。

水嶋:ベタな言い回しになるんですけど、お互いのリスペクトですよね。

三好:ほんとそうですよね。

水嶋:私が知る受入企業の事例では、ほかの実習生がやった問題を、その個人ではなくベトナム人など国籍でまとめて捉えてしまう。そして次に新しく来た実習生に、「前にあいつがやったからお前もそうだろ」と考える。これはほんとによくない。国籍でまとめて考える時点で危うい。だから、国籍は脇に置いて、個人を深掘りしていくことがとても大切だと思います。出身地を知る、親の顔を知る、趣味を知る、人物像の解像度が上がれば横暴なことはなくなるのかな。

三好:僕ら、実習生候補の方と出会って最初に聞くのが、夢やキャリアビジョンなんです。日本で働くことをどういう風に捉えているのか、入口でシッカリと考えられている人かどうかを見ています。

水嶋:そうですね。問題が起こる背景には、監理団体や受入企業だけでなく、なんだかんだで実習生の姿勢や覚悟も大いにあると思います。あまり言い方はよくないかもしれないけど、そうした「ふるい」が機能していれば、結果的に、トラブルが起こる可能性もうんと下がりますよね。改めて、実習生の日本側の入口である監理団体の役割って、ほんとにほんとに重要だなと思いました。

岡山市内のベトナム料理店「Vietnam Food Market」での料理、これまで食べた日本のベトナム料理店の中でもトップクラスの味でした。

コミュニケーションにITツールの積極活用

以上です。今回のお話で印象的なことはたくさんありましたが、とくに「外国在住者との仕事にITツールは必須」という話が個人的にとても刺さりました。

私自身、かつてベトナムで生活する中でITツールには何度も何度も助けられてきました。翻訳アプリを使わずとも、買い物で探しものをしているときにスマホで画像を見せるとか。

技能実習生が働く先は、労働力に窮する地域や企業で、少子高齢化により人口が少ない地方であることも多いです。そうした環境で職場におけるITリテラシーが低ければ、意思疎通を図るためだったとしてもスマホを取り出すだけで「遊んでいる」と受け取られ兼ねません。

そんな企業をサポートする立場である監理団体は、当然ながら企業以上に求められるものでしょう。もちろん、これは技能実習制度の分野に限りません。コミュニケーションにおいてITツールを活用することは、これからのスタンダードですらある、と思いました。

「Vietnam Food Market」の店員さんとの一枚。

 

文・写真:水嶋 健
写真提供(一部):三好さん

 

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